暗殺日記

□?日目
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登下校、本校舎の近くを通らなければいけないのは仕方ないし、この疎外感にももう慣れた。
私は本校舎で特に親しい人がいたわけでもないし、からかわれたりする事はほとんど無い。

今日も本校舎の生徒の事は気にせず、下校をしていた。
だからE組以外の人に名前を呼ばれた時は、それは心底驚いた。
驚きつつも、聞き覚えのある声の主の方に振り向いた。


「思ってたよりも嬉しそうな顔をしてくれたね、篠原さん。」

「分かって話を進めてくれてありがとう。で、浅野君は私に何か用?」

「用がなければ、同級生を呼び止めてはいけないかい?」

「用がなければ、呼び止めなさそうだと思ったからですが。」


出来る限り関わりたくない、E組の宿敵とも言えるだろうか、浅野学秀。
互いに皮肉を交えつつも、引く事も引かす事も出来ない。
A組とE組の人間が話してれば、変な注目を浴びる上、クラス同士でいがみ合っている中、関わりたくないと思って当然だろう。

ちなみに私と浅野君は、本当に少しだけ関わりを持ったことがある。
と言ってもまだ本校舎にいた頃、他クラスとの合同授業で少し世話になった程度。
その後は会話をすることも無く、廊下ですれ違った時に挨拶するくらいの仲で、私がE組行きに決定してから、もちろん関わりなんてなくなった。

最近になって、テストや体育祭など、学校行事でクラスで対立しあっているが、かと言って私と浅野君が再度関わりを持つ事などなかった。
そんな中、何故私に声をかけたのか疑問だ。


「かつての友人とたまには世間話を、と思っただけだよ。校舎も離れて、ほとんど顔を合わせないしね。」

「じゃああの頃は、私を友達だと思ってくれてたんだ。それは光栄。」

「そんな事は置いといて、良かったら途中まで一緒に帰らないかい?」


自分で言っておいて、そんな事で済ませるのは如何なものか。
それよりも、断りたいという考えが私の頭の中を駆け巡る。
しかし笑顔で言う浅野君を見て、この笑顔は逆らってはいけない、と本能的に察してしまった。
支配者の血筋は伊達じゃない。

どうせ深い意味はなく、たまたま見つけたE組生徒を捕まえて探りを入れる、くらいの目的だろう。
テキトーに返事をして、結果一緒に帰ることに。
本校舎の生徒にしろ、E組の人にしろ、こんなところを見られたら自殺ものだ。
噂とかされると恥ずかしいし、など冗談を言ってる場合ではない。


「君とちゃんと話をするのは、あの合同授業以来かな。あれから、会話らしい会話はしていないし。」

「そうだけど···元々、雑談をするような間柄じゃなかったし、そんな今更···。」

「でも挨拶はする仲だったしね。本当に関係性がないなら、それすらしないと思うけど?」

「私はてっきり、儀礼の挨拶かと思ってたよ。」

「へぇ···。」


その短い返事に少し恐怖を覚え、思わず肩を上げた。
失言かとは思ったが、悪いとは思っていない。
実際にそう思っているし、あの頃は本校舎に居たとはいえ、浅野君が私にただ友人として、気軽に挨拶をするとは思えない。


「儀礼的な挨拶は否定しないが···君は変わったね、あの頃と比べて。」

「何、唐突に···。」

「面影はあるけど、かつての君は周りの様子を伺って、それに合わせてるだけに見えた。でも今は、自分をはっきり持っている。」


案外この人は、他人の事を見ているのだろうか。
以前も今も、私とはたった数分しか話をしていないのに、そんな違いに気が付くなんて、余程だと思う。


「変わったのなら、きっとそれはE組のおかげ。最高のクラスだよ、あそこは。」

「···やはりE組には、何かあるようだね。僕らとやり合うだけはある。」

「次はどっちが勝つのかなぁ。まぁ勝敗なんて、何でもいいけど。」


私がそう言うと、浅野君は不思議そうな表情をした。
みんなはどうか知らないけど、私はA組との勝負を密かに楽しんでいる。
それに勝敗なんて関係なく、ただ競い合っているのが楽しいだけだ。

しばらくして、帰路が異なる交差点に差し掛かった。
別れの言葉を軽くかわして帰ろうとしたが、私は振り返って少し声を張って言った。


「久々に話せて楽しかったよ。できれば今度は、ただの友人として雑談でもしようよ。」


これに返事はなかったし、実際にするかなんて分からないけど、浅野君が僅かに微笑んでいるように見えた気がした。





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