中編

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次の日、学校に行ってみたらクルークはいつも通り教室にいた。
さらにいつも通りアミティに嫌味を言って、いつも通りラフィーナと突っかかっている。
ここまでと変わりのなさに、昨日のは何だったんだろうかと思い始める。
とはいえアレは別人だし、クルーク自身にどうこう言えるものではないのだろう。
分かってはいるが、私の中のこのモヤモヤしたものが腑に落ちない。


「あのっ···サユさん、どうかしましたか?」

「いや、何でもない。リデル、クッキー食べる?昨日作ったんだけど。」

「良いんですか?じゃあ、1つ頂きます。」

「サユー!あたしも欲しい!!」


私の様子に気付いたリデルが顔を覗きながら話しかけてくれた。
普段からこういう事に気付き、気遣いのできるリデルに感動を覚えた。
昨日帰ってから暇潰しに作ったクッキーを話題を変えるため、そしてほんの少し小動物に餌付けをする感覚であげてみた。
アミティはお菓子の存在に気付いたらしく、勢い良く飛び付いてきた。
美味しそうに食べてくれてるし、良しとしよう。



放課後、各々が自由に動き始める。
早速帰ったり、お喋りしたり、ぷよ勝負を始めたり。
その中私はまっすぐとクルークの元に向かった。


「クルーク、ちょっと話しがあるんだけと良い?クッキーあげるから付き合ってよ。」

「僕がそんなので釣られるわけが無いじゃないか。まぁ仕方ないから、話くらいには付き合ってあげるよ。でも僕はサユと違って忙しいからね。なるべく手短に済ませっ」

「うっさい、とりあえず付いて来い。」


御託を並べるクルークについイラっとしてしまったので、話してる途中で口にクッキーを突っ込んだ。
急なことでむせているが、そんなことは気にせずクルークの手を引いて場所を変えた。

学校の端にある人通りの少ない階段の踊り場まで行き、掴んでいた手を離して向き合った。
普段から人も来ないし、放課後は大抵みんな中央の階段を使うので、邪魔が入ることはないだろう。


「それで話なんだけど···て、大丈夫?」

「誰のせいだと思ってるんだっ!」


治まってきていたとはいえ、やっぱりちょっと苦しいのか涙目になりながら口元を押さえていた。
うん、確かに根源は私だ。


「まぁそれは置いといてさ、本題に入るよ。」

「ちょっとは罪の意識を持」

「つ気はない。私からは一言、あの本は手放した方が良い。」


これを聞いた瞬間、さっきとは打って変わって大人しくなり、驚きの表情で私を見た。
まぁそりゃ急にそんなこと言われれば理解できないのは当然だろう。
少し間を置いて何かを思いついたのか、いつものニヤついた顔に戻った。


「何だい、僕の才能に嫉妬でもしてるのかい?生憎だけどこれを手放したところで、僕の才能にかなうワケがなその手に持ったクッキーしまいなよ。」

「ごめん、クッキーが有効物理攻撃だと分かったもんで···。えーと、あの本持つと魔力が高まるんだっけ?そりゃ持ってたいよねー。」

「べ、別にこれがなくっても、僕の魔力は十分優れているんだからな!」

「じゃあプリサイスに返してきなよ。無くても良いのなら。」

「それとこれとは別さ。」

「コイツは···。」


口論、屁理屈では勝てるとは思ってなかったが、これは思っていた以上だ。
危険性がわかっていないとは思えないし、知っていて自ら持っているのなら文句が言いにくくなる。

確かに今も封印されている状態ではあるのだろうが、もともと古いし、一度解かれたそれは力が弱まっている。
きっとこの前あったのも、勝手に出てきて身体を奪ったからだろう。


「まったく、まるで駄々っ子だなぁ···。」

「なっ!!変に子供扱いするなっ!僕はサユより大人だぞ!!」

「同い年でしょうが。とにかく、もう分かったから良いよ。持っていたいなら、好きにしなって。」


今度は呆気にとられたような顔をした。
結構表情豊かというか、この分かり易い辺りは子供っぽい。


「でも、身体がどうなっても知らないよ?その場に私がいれば、手は貸さなくはないけど。」

「···愚問だね。君の手なんか借りなくても、僕は平気だよ。」

「ひねくれ者。···ついでだから、一緒に帰ろ。」

「何で僕がサユと···まぁどうしてもって言うなら、考えてあげてもいいよ。」

「はいはい、行こ。」


二人並んで教室に戻って、誰も居なくなった教室から荷物も持って学校を出た。
帰っている途中、ほとんど話すことも顔を合わせることもなかったけど、悪い気はしなかった。





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