中編

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「シグさーん。どこまで行くんですかー?」

「もっと奥ー。」

「マジかよ···。」


只今私とシグはナーエの森を探索中、というよりシグの見つけた新しい虫の出現ポイントに向かっています。
別に私は虫が好きというわけではないが、嫌いでもない。
簡単に言えばお手伝いようのものだ。
まぁ別にいいんですよ。
虫を見る前からワクワクした表情で、その目的地に向かうシグの顔を見れば断る気なんて絶対に起きない。
つまり負けました、て事。


「でも珍しいね。一人で行かないで私を誘うなんて。」

「一人でも良かった、けど···いっぱい捕まえるから。」

「え、パシリ?まさかの荷物持ち?女の子にやらせることじゃないよね?」


衝撃の事実を知った。
来てしまったからには、最後まで手伝おうとは思うけど、どうも解せない。
聞かなかったことにして、シグの後ろをついて行く。



「······?」

「···サユ?」


私が思わず足を止めると、それに気付いたシグが振り向いて私の方を見た。

さっきまでは何も感じなかった。
なのに急に、かすかに感じる魔導。
これはこの前あったことのある紅い魔導。


「これは···まずいなぁ。」

「何が?早く行こ···」


シグも気付いたらしい。
というより、それが姿を現しただけで、私達の後方にアイツがいる。
注意してやったのに、クルークは早速体を奪われたというのか。

あの魔物はこちらを見て不敵な笑みを浮かべる。


「見付けたぞ···前回は邪魔をされたが、今度こそ···。」

「ん?シグ、アレと会ったことあるの?」

「···忘れた。でも、ヤな感じがする。」


本能で分かるのか、いつも無表情なのに今はまさに苦虫を噛み潰したよう。
でもシグが嫌がるのも分かる。
以前にあくまさんに無理に聞いたことがある。


「シグ!」

「え」

「ウラノスッ!!」

「なっ···?!」


私はシグの手を掴んで呪文を唱えて、クルークもとい、魔物に魔導を放つ。
ウラノスは私の魔導の1つ。
突然に放たれた魔導に驚き、その隙にシグの腕を掴んでその場から逃げる。
シグが付いてこれず、少しよろけるけどなんとか持ち直して走り出せた。

少し慣らされた街から外れ、草木の茂っている道無き道を突き進む。
魔力は隠せないが、姿なら草木が隠してくれるだろう。


「このまま街に逃げよう!悪いけど、虫取りは中止!」

「えー···。」

「えーじゃない!」


コイツの虫の順位が高すぎて困る。
街に行く道は魔物が塞いでいたから、少し遠回りをして街に行かなければならない。
でも森の中を逃げ回るよりも、街に逃げた方が人もいるし、誰かに助けも求められる。
何としてでも、そこまでシグを逃がさなければならない。

以前あくまさんに聞いたことがある。
封印のきろくに魔物が封印された後、残された少年がどうなったのかを。
あくまさんは話すのをためらっていたし、初めは教えてくれなかった。
何度も頼み込んで聞いた。
普通に生活を送り、今もその血を受け継ぐものが生き続けている、と。

あくまさんはそれを話すべきではないと思っていただろう。
だから私は知った上で、シグと変わらずの関係を築き続けていた。
そして今も、知った上で行動をする。

道が開けてきて、木々の隙間から街の建物が見え始めてきた。
アイツの魔力は近くには感じないし、今ならきっと逃げられるだろう。


「シグ、このまま真っ直ぐ行けば街に行ける。その後は誰かと一緒にいて。」

「サユは?一緒に···。」

「私はさっきのアイツを一発ぶん殴ってから行くよ。」


我ながら満面の笑みを浮かべられたと思う。
シグはそれとは反対に、不安げな顔をした。
不安というよりも不満のほうが適切だろうか、アイツを嫌がるシグにとっては関わって欲しくないのだろう。
シグは私の手を握り直して、私を見た。


「ダメ、サユも行く。あのメガネは何するか分からないし、多分危ない。」

「だろうね。でも、このまま放っておけないし。」


偉そうなことばっかり言ってるけど、勝てる気なんてない。
もっと言えば、勝つつもりも無いし、再び封印する気もない。
何がしたいのか自分も分からないけど、何もしないで居れないなんて単純な理由なのだろう。


「···時間がないな、早く行って。私は大丈夫だから。また明日、虫取りに行こうよ。」

「·····っ」


さっきまで感じなかったが、アイツの魔力が近付いて来たのが分かった。
シグは最後まで一人で行くのをしぶったが、最終的にはこちらに背を向け、街の方に走っていった。
ある程度の距離まで離れたのを確認して、私は森の奥を見た。

間もなくして、木々の隙間から紅が姿を現した。




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