中編

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天災は忘れた頃にやってくる、と言う言葉を思い出した。
まさに今の状況かもしれない。
いや、アイツを天災と呼ぶのもおかしいかもしれないが、一番適切な言葉がこれな気がした。


あの日から私の怪我も治り、平穏が戻ってくるのにそう時間がかからなかった。
プリンプは元々平和だから、私の怪我が治れば、そんなこともあった、という程度の思い出にしかならない。
きっとシグの事だから、関係者であるけれど忘れかけているだろう。
明白に覚えているのは、私だけだと思う。
そしてまた、アイツに会う日が来るのだろうと思っていた。




「だからって、街中で普通に会うとは思わなかったよ。」

「私がいつ、どこにいようが自由だ。」


学校の休みの日、家の中にいるのもなんなので街に出てみた。
買い物する気も無く、ただなんとなく店を眺めながら歩いていると、見慣れかけた紅に会った。
この会わなかった間、また身体を借りて出歩いていたかもしれない。
そうだとしても、クルークにもシグにも、何の変化もなかったし良しとする。


「ところで、こんなところで何してんの?買い物とかするの?」

「目的などない。散策しているうちに辿り着いただけだ。仮に目的があったとしても、お前だけには絶対に言わん。」

「ですよねー。」


街中と言っても、ここは外れの方。
中心街から離れていて、目立った店も特にない。
どうやらコイツは私と似たように、ただ彷徨いていただけのようだ。
皮肉を言っているけど、多分本当に今は目的なく歩いていたみたい。


「ねぇ、特に行く所無いなら、ちょっと付き合ってよ。」

「断る。」

「即答?!少しくらい悩んでもバチは当たらないよ!」

「お前の我儘に付き合う義理は無い。分かったら今すぐ去れ、私の前から消えろ。」

「断る。」

「········。」


何が言いたそうな目でこちらを見ているが、私はそれを分かっててスルーした。
初めの頃より、多少は友好的に話せるようにはなれたと思うけど、やっぱりどこかに壁があるようだ。
しかしそれは当然だろうし、それを崩す気も壊す気もない。
あいかわらず、私は何がしたいのだろう。

そこは気にせず、私は魔物の手を無理やり取って歩かせた。
私の突然の行動に、かなり驚き焦るのか良く分かる。


「いいから着いてくる。つまらない場所じゃないから。」

「ま、待て、離せ!人の話を聞け!!」

「離したら逃げるじゃん!断固拒否!!」


後ろから盛大な舌打ちが聞こえたけど、聞こえないふり。
本当に嫌なら魔導でも使って払えばいいのに、それをしないとは少し心情の変化があったのだろうか。
私はそれが嬉しくて、頬を緩ませずにはいられなかった。
きっと位置的に、私の顔は見られなかっただろう。
繋いだ手は、クルークの身体がまだ幼いからか分からないが、暖かかった。





「ここだよ。プリサイス博物館。」

「·····で、ここに何の用だ。」

「本命はここの中。いざ行かんー。」


今度は手は引かずに、私は館内に向かった。
けれど魔物は去ることなく、私のあとをついて来てくれた。
諦めなのだろうか、それとも興味があるのかは聞かないでおこう。
きっと文句を一言言われる。

まっすぐ目的の場所まで行き、その部屋の扉を開け、中に入れる。


「プリサイス博物館館内施設図書室。本好きだよね?」

「···何故それを···」

「本に書いてあったからね。魔物は本が大好きだ、て。ここなら···て、おーい。」


答えてやったら横目で私の方を見て、そのまま奥へ迷いなく歩いていった。
人が話している途中で、失礼な奴だ。
まぁ気に入ったのなら何より。
ここはアイツの眠っていた場所でもあるし、何が言われる覚悟だったがそうでもないらしい。
本棚に紛れ姿が見えなくなった頃、自分も何が読もうと一歩踏み出した瞬間、背後から話しかけられた。


「ま、客人かま。」

「うわぁ!あ、あくまさん?!驚かさないでください···!」

「それはすまないま。しかしサユ、図書室は静かにするものま。」

「あ、スミマセン···。」


急に声をかけられ、私は驚き思わず悲鳴をあげた。
これはあくまさんに非はないのだろうか。
いや、さっき謝っていたし、すでに帳消しとなっているのか。


「そなた以外にも、奥に客人がいるま。」

「あぁ、私が連れてきました。」

「知識を増やすこと、良きことま。けれど、今の時に招かねざる客人なり。」

「そ、それは···。」


あくまさんは、たしかアイツの存在をあまり良く思ってなかった気がする。
邪悪なタマシイと書かれているそれが自由に歩き回っていれば、そう思うのは当然か。
ましてやシグの身体を狙っているとなると、私のように黙っていないだろう。


「でも、大丈夫だと思います。何があったら責任は私が取るんで、アイツにも使わせてあげられませんか?」

「ふむ···サユがそういうのならば、われも考えてみるま。しかし、何故そこまでするま。」

「何故かと言われても···何ででしょうね?私も良く分かってないんです。」

「まぁ、第六感で動くのも悪くないま。答えが出せるまで、大いに悩むと良いま。」

「そういうものですかねぇ···。」


あくまさんが、この不明点を分かったのかは知らないけど、あいかわらす重みのある言葉だ。
きっと何が理由があるのだから、それが私にも分かる時が来るのだろうか。
現段階では、その時が来るとはまったく思えないが、急ぐ必要はない。
そして答えが見つけられたときは、アイツにもあくまさんにも、伝えたいものだ。

それはそれとして、せっかく図書館に来たのだから、私も本を読むとしよう。
アイツはあの様子では本当に本が好きなようだし、すぐ帰るとは思えない。
何か良さそうな本がないか、探しに行ってみる。


「新たに古書を所蔵したま。良かったら、読んでみるま。」

「本当ですか?!ありがとうございます!!」

「図書室内では静かに、ま···。」


私の好む本を知っているあくまさんは、私が出る前にいい情報を教えてくれた。
つい上機嫌になり、テンションは上がるわ、走りかけるわ、注意されまくる。

少し早足気味に館内奥へ向かってみると、魔導書の置かれている棚のとある場所で魔物を見つけた。
私にはまったく気付いていないようで、少しも顔を動かさずその場所で本に目を通している。
座って読めばいいのにとは思ったが、邪魔することもできないので素通りした。
あの様子ならば放っておいても大丈夫たと思い、安心して本を探した。





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