中編

□7
1ページ/2ページ



「あ、居たー。そろそろ閉館時間だよ。」

「そんな時間か···。つい長居してしまったな。」


陽も傾き、空が夕日で赤く染まり始めた頃、時間を見てみたら閉館時間15分くらい前になっていた。
こんな時間になるまで、気付かずに本を読んでいた私も私だ。
読み切れなかった本と、未読の本を数冊持って魔物を探してみると、さっきとは別のコーナーで、同じように本を立ち読みしていた。
話しかけるのに気はひけたが、あくまさんに迷惑もかけられないので帰宅を促す。


「読みかけの本があるなら借りれるけど、どうする?持ってく?」

「借りられるのか···?なら、頼むとしよう。」


借りたい本を選ばせて、それを持って手続きをしに向かった。
コイツの分はクルークの名で借りていいのか悩んだが、面倒だからとりあえず、それで貸出の手続きをしておいた。

それぞれが借りた本を片手に、帰路を並んで歩いていく。


「帰ったらちゃんと身体返しなよ?今日は1日借りちゃったんだし。」

「借りた本を読み終えたらな。」

「その量読むのにどれくらいかかるのさ。」

「夜中までには読み終えるだろう。」

「あの魔導書、しかもあの量を今日中に読み終えるだと···。何その速読、その才能欲しい。」


別に私が本を読むのが遅いわけではない。
むしろ読むのは早いほうだと思う。
読みながらする作業のせいで時間がかかるだけで、断じて遅くはない。
けれど私が見ても、あの量の本を全部読むとなれば、頑張っても数日はかかって1日は絶対に無理。


「さすが魔物様ですねー。私ももう少し速読力欲しいな。」

「そういうお前も、大量に借りているだろう。そんなに読むようには見えんが。」

「軽い言葉の暴力だ。私だって興味のある本はもちろん読むよ。」

「なら、お前はどんな本を読むんだ?」

「古書。歴史書とか、そういうやつ。プリンプ周辺って面白い歴史が多いけど、謎が多いから編年体とか少ないんだよね。」

「そういえば、あの封印書も読んでいたな。···思っていたより、まともな本を読んでいるんだな。」

「さっきからジミに喧嘩売ってんの?買えば良いの?」


コイツはどこまで私を下に見ているんだ。
こういう面では負けているかもしれないけど、魔導ではいい勝負をしたのに。
まぁきっと本当の力ではない、なんていうだろうな。

私は魔導学校に通って、魔導師も目指しているがもう一つ目指しているモノがある。
それが考古学者。
昔から歴史が好きで、図書館ではそういう系統の本ばかり読んでいた。
最近では実際に遺跡に行ったり、あくまさんから歴史を教わったりして、新しく知識を増やす。


「封印のきろくだって、アルカの貴重な資料だしね。何回も読んだよ。」

「こんなものを重視されても、微塵も喜べん。ただの忌々しい本だ。」

「本人だから語れる言葉だなぁ···。そうだ、アルカ時代のこと教えてよ!」


魔物は一瞬で嫌そうな表情をした。
そんなことは予想してましたけどね。
今更これくらいで傷つきないし、食い下がりもしないけど。
私に教えるのが嫌なのか、それともその時代こそ封印された恨みがあるから思い出したくないのか、どちらかだろう。
こう考えると、両方な気がしてならない。

アルカの知識はどんなのがあったのか、思い出してみた。
封印のきろくはもちろん、他にアルカ史の内容も思い出してみる。
戦いの設備は皆無、高度な住環境か整っていた。
天災により途絶えた文化はどうなったのか、知りたいことは多い。
けれどよく考えてみたら、その時代に封印されたわけだから、その後のことは知らないのか。

ならば、コイツに関わる不明点を教えてもらうのはどうだろう。
アルカの詩が書かれた石板も見せてもらったが、恐れられていたのは事実のようだ。
質問内容によっては怒られそうなので、こればかりは慎重に考える。


「あ、じゃあ名前は?貴方の名前。どこにも書かれてないし、今更だけど魔物って呼ぶのもどうかと思うし。」

「···私に呼ばれる名など···そもそも人に聞くならば、まず自分の名を言ったらどうだ。」

「······あれ、私の名前教えてないんだっけ?」

「教わった記憶はない。」

「嘘っ!!?」


今になって衝撃的な事実を知った。
いわれてみれば、初対面の時やシグを狙った時は余裕がなくて言ってなかった気がする。
今日に限っては慣れで緊張も解れ、気にも止めていなかった。
それを言わなかったコイツもコイツだ。
私に興味がないのは分かるけど。


「今更自己紹介も変な感じだなぁ···。私はサユ、改めて宜しく。で、貴方は?」

「私は···私に名などない。あったとしても、もう忘れた。呼びたければ、好きに呼ぶがいい。」

「あ、やっぱり名前ないんだ。」


どの本にも”魔物”や”紅いタマシイ”と書かれているだけで、名前らしきものは見つけられなかった。
城に一人で住んでいたとも書かれていたし、やはり本当に名前がなかったのだろう。
名が無いとしても、やはり呼ぶときは名前で呼ぶのがいいと思う。
今まで魔物と呼び続けたが、多少失礼だとは思っていた。


「今更そう深く考えることでもないだろう。そもそも私に呼ばれる名など、元より必要ない。」

「いや、名前は必要だからね?名前っていうのは特別な力があるんだから!」

「ならば尚更···」

「あやって結構卑屈だよね。そういう面では私より深く考えてる気がする。」

「待て、今何と呼んだ。」

「え、あや。」


さも当たり前のように言う私に対し、何を言ったのか理解ができない様子の魔物、もといあや。
さっき即席で思いついた名前だ。
前にアミティが怪しい感じだった、と言っていたので初めの2文字を取った単純かつ、分かりやすく軽く酷い名前。
人名っぽいから悪くはないと思うのだが。


「あやあや、あやー···。うん、呼びやすい。決定。」

「連呼するな、独断で決めるな。」

「あれー?でも好きに呼んでいいって言ったのは、そっちですよねー?」

「ちっ···!」


ついニヤニヤしながら言ってしまった。
多分自分で見てもムカつく顔をしていたと思う。
今回ばかりは私が優勢かもしれない。
自分で言ったことを違える事はしない、プライド高い性格はこういう時に使える。
名付けとはなんだか不思議な気持になるものだ。
私はそのフワフワとした感情を持ち、上機嫌で帰路を歩いた。



そして名をもらい、喜びにも苛立ちにも取れない思いを胸に、少年の姿をした魔物は少女と共に赤い空の映える道を帰っていった。





(あとがき→)
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ