中編

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これは夢だ。

たまに、自分が見ている光景は夢だと自覚するしてみる夢、いわゆる明晰夢を見ることがある。

そして今もだ。
見慣れた街の風景、だけど周りには誰もいない。
普通なら怖い夢なのかもしれない。
けれど明晰夢だからだろうか、不思議と恐怖心はない。

私はこれからどうしようか。

そんなことをボンヤリと考える。


「――――。―――――――――!」


どこからか声が聞こえる。
はっきりとは聞こえないが、どこかできいたことがある声だ。
夢の中じゃない。
これは多分現実で呼ばれている。


「サユ!大丈夫ですか?!」

「······っ?!り、りんご···?」

「良かったー···!全然起きなくて、心配したよー···。」


はっきりと声が聞こえた瞬間、目が覚めた。
夢を見ていたし、レム睡眠だったから認識にそんなに時間はかからなかった。
さっきの声はりんごだったのか。

私はベッドの上に寝ており、周りを見渡せば香る消毒薬の独特の匂い。
どうやら、保健室に寝かされていたようだ。
けれど、それよりも気になることがある。


「あ、あれ?何でりんごが···元の世界に戻ったんじゃ···。」

「···サユ、落ち着いて聞いてください。私達は元の世界に戻りました。そしてここはその世界、ちきゅうです。」

「······は?え、もう一回お願いします。」

「百聞は一見にしかず!ちょっとついて来てください!」


半ば無理やり立たされ、腕を引かれて早足で歩かされる。
寝起きで働かない頭では理解できず、されるがまま。
階段を上りつめ、りんごが屋上の扉を開けて一緒に外に出される。
太陽の眩しさで一瞬目がクラんだが、すぐに目がなれる。
屋上から見下ろす街の風景は、全く見覚えのない街並みだった。


「···はぁ?!何これ、どういう事?!」

「つまり、サユがこっちの世界に飛んできた···て事になるかな。」

「ま、マジか···。」


思わず屋上の柵から身を乗り出し気味に、その街を見下ろした。
知っている建物は一つもなく、広がるのは知らない景色だけ。
さっきまで寝惚けていたけど、目が覚めて自分に置かれた状況がはっきりとわかった。

アルルやりんご達は、プリンプにきたときはこんな気持ちだったのだろうか。
柵に寄りかかり、項垂れてしまった。


「···何の解決にもならないけど、うちの部にきてみる?まぐろ君や先輩も心配してたし···。」

「そっか、二人もこっちに居るんだ。···とりあえず、そうしようかな。」


りんごに案内され、再度校内に戻る。
階段を下り廊下に出れば、学校に残っている生徒がチラホラと見える。
全員が同じ制服を着ており、プリンプにいた頃と同じ服を着ている私がどうも浮く。
ちょっと心細さを感じたころに、部室に到着した。


「おや、サユくん。もう大丈夫かい?」

「りすくまさん···。お陰様で目が覚めましたよ、いろんな意味で。」

「まだちょっと、ダメみたいだね。仕方ないけど。」

「私の順応力をフルに使っても、頭がついていかないんだよ。」


りすくまさんもまぐろも心配してくれるが、まぐろは軽く失礼だった気がするのは置いておこう。

それにしても、この部室とやらは独特の雰囲気がある。
理由は十中八九、りすくまさんの薬品のせいだろう。
部室内を見渡していると、りんごが近くの椅子に座り、その隣に私も座らせてくれた。


「それでは、状況を整理しましょう。おそらくサユは、以前アルルやアミティがここに来たように飛ばされてきてしまった、でOK?」

「待った!アミティたちもここに来たことあるの?!」

「その時僕たちは、ぷよを消す力を手に入れたんだよ。」


ここに来て初めて知る情報だ。
プリンプであったときは、すごく自然にぷよ勝負をしていたから知らなかった。
なら初めはぷよを消す力はなかったのだろうか。
やはり、少し常識は異なるようだ。
それは後にして、話を戻そう。


「サユくんはこちらに来る前、何か覚えていることはないのかい?ヒントになるかもしれない。」

「それが何も···。全く思い出せないよ。」

「アミティがここに来た時も、記憶が曖昧みたいなことを言ってました。」

「共通していることが正解に近い、てのはゲームの定番だよね。尊重しておこうよ。」

「人の行く末をゲームと言わないでいただきたい。」


真面目に考えているようで、少し脱線しかけるのは何故だろうか。
しかしアミティたちがここに来たことがあるなら、それは手がかりにはなるだろう。


「そうだ!アミティたちは、どうやってプリンプに戻ったの?!」

「その時は空間の歪みみたいなのがあったり、7不思議スポットでぷよ使いと勝負をしたら、いつの間にかプリンプにいたよ。」

「···で、今回は?」

「残念ながら、サユちゃん以外に向こうの世界の人は見かけてないし、歪みのようなものはなかったよ。」

「絶望的じゃん。」


絶望を感じ机に伏せると、下校を促す放送が入った。
嫌なタイミングで時間が来て、悲しみにくれながら三人と一緒に学校を出た。





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