短編集

□怖い人
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社員が入って来ないブルマの部屋がある階の廊下を外を眺めながら歩く。

晴れている今日は絶好の休日で、街のあちらこちらに家族やカップルがのんびり歩く姿が見られる。


楽しそうだなぁ…なんてその様子を眺めていた私。

目の前を歩いて来る人影に全く気付かず、物の見事にぶつかり尻もちをついてしまった。

「っ…いたた」
「貴様っ!気を付けろ!」

上から降ってきた怒鳴り声にビクッと震え、私はそぉっと目線を上げた。

「…っ!!?」

そして目に入った人物の迫力に、危うく悲鳴を上げそうになってしまった。

逆立った髪につり上がった瞳、如何にもガラの悪そうな男性だったのだ。

この階にいるのだからブルマの知り合いか何かなのだろうが、今の私にとってはそんなこと知ったことではない。

とにかく、怖い…。

「ぅ…あの、すっすみませんでした!!」
「っおい!」

急いで立ち上がりバッと頭をこれでもか、と下げる。
こ、このままダッシュでブルマの部屋に逃げ込もう…!

そう思い男性の横をすり抜けようとした。
だがそんな私の行動も虚しく、腕を男性に掴まれ動けなくなる。

「うえっ!?」

奇声を上げて反射的に掴まれた腕をぶんぶん振ってもがく。

「暴れるなっ!」
「離して下さいよぅ!ブルマァァ!!助けてぇ!!!」

半ば泣きそうになりながらブルマに助けを求める。お願いだから近くに居てっ!!

私が強く願ったその瞬間だった。

バンッ!!!
「…っ!?」

身体をぐいと引っ張られ、直後左耳を襲った物凄い音。
後ろは壁で目の前には男性、顔の左には男性の腕が…。

人を殺しでもしそうな鋭い眼差しで睨み付けられ、声が出なくなってしまう。

ぱくぱく口を金魚のように動かす私は、まるで金縛りにあったように男性のその瞳を見つめる。

「…チッ」

すると男性は小さく舌打ちを零し、一瞬私から視線を逸らした。

それに対して私が安堵したのも束の間、次の瞬間には私と彼の距離はゼロになっていた。

「んっ!?」
「………っ」

数秒間続いたそれは、彼が離れたことによって終わりを告げる。
当の私は混乱から頭が真っ白になり、目を丸くして呆然とするしかなかった…。

「…俺はベジータだ。覚えておけ」

無表情でそう言った彼は、スタスタと何事も無かったかのように私が歩いて来た方へ行ってしまった。


ブルマの部屋は直ぐそこなのに、結局私は彼女がこの廊下を通り掛るまでの数十分間、ぼーっとしたまま一歩も動くことが出来なかった…。
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