短編集

□一口どうぞ?
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とある日の夕方。

学校帰りにコンビニに寄った私は寒かったこともあり肉まんを一つ買った。

別にそれくらいなら誰でもすることだし、可笑しい要素なんて無い。

冷めない内に食べちゃおう、と人気の少ない路地に差し掛かったところでビニール袋から肉まんを取り出す。

「あっつ…」

ぺらっと肉まんに貼り付いている紙を剥がす。

すると、そのタイミングで後ろから声が掛かった。

「なあ」

先程まで気配もしなかった為、目を丸くしながら後ろを振り返る。

「オッス!」
「ご、悟空さん!?」

そこに居たのは悟飯君のお父さんである悟空さんだった。

目をぱちくりさせる私を尻目に悟空さんは「それ、うまそうだなぁ」なんて言って、私の手元の肉まんをじっと見つめる。

「あ、あげませんよっ!?これは私がなけなしのお小遣いで買ったんですから!」

バッ、と肉まんを悟空さんから遠ざける。

するとそれを見た悟空さんが笑う。

「でぇじょぶだって!オラ人の食いもん横取りする程、食い意地張ってねぇぞ!」

ははっ、と楽しげに笑い続ける悟空さんだけど、前に孫家にお邪魔した際夕飯を取り合っていたのを私はしっかりと覚えているので何とも言えない…。

思わず無言になりながら少し冷めてしまった肉まんにかぶりつく。

もぐもぐ
「………」
「………」

もぐもぐ
「………」
「………」


「……あのぉ」

そ、そんなに見つめられると物凄く食べ辛いんですけど…。

「ん?あ、悪ぃ悪ぃ!うまそうだったからつい」

へへっ、と頭を掻く悟空さん。



「…一口、食べますか?」
「いいんか!?」

口に含んだ肉まんを飲み込んでそう問いかければ、予想以上の食い付き方で顔をぐいっと近付けられ、後ろに仰け反ってしまう。

若干戸惑いながらも「いいですよ…」と返答して悟空さんの口元に肉まんを持って行く。

「さんきゅーな!」

にっこり笑った悟空さんが肉まんにかぶりつき、とても幸せそうな顔をしていたので、私も自然と笑顔になった。




(…あれ、よくよく考えれば私悟空さんにあーんして、しかも間接キスしちゃったじゃん)
(もぐもぐ…)
(同級生の父親だし色々マズイ気がするんだけど)
(やっぱうめぇな!!)
(…まっいっか)

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