短編集
□バカな人
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「バカな人ね、貴方って」
ポツリ、と思ったことを口にすれば、彼は視線だけを此方に向けた。
その瞳はいきなりなんだ、とでも言いたげで。
「やっぱり何でもないわ…」
私はそう静かに返して目を閉じた。
暫くその状態でいれば横でバーダックが動くのが分かって、片目だけ開ければ直ぐ目の前に彼の顔が。
「なあに?」
「何でもねぇけど?」
フフッと笑って再び目を閉じれば、唇に降って来る彼のそれ…。
荒々しいいつもの言動とは裏腹に、口付けは優しいものだった。
「私と貴方は遊びでこうしているのよね?」
口を動かす度に触れてしまう程、近い距離を保ったままの彼に問い掛ける。
「遊び以外にあるか?」
「そうね、愚問だったわ」
もう一度唇を重ね、二人してベッドに沈む。
熱くなる躰とは打って変わり、どんどん冷たくなるココロ。
「……何も、考えんな」
そっと私の頭を撫でながら呟く彼の言葉に、私は従った。
「やっぱり……バカな人ね、貴方は」
(私は明日、死ぬだろう…)
(コイツは明日、殺されるんだろう…)
(だから彼は、私が潔く死ねるよう…遊びだと言ってくれる)
(本当は……愛してるんだ)