書き物

□マブダチ。
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「…ハッ、俺としたことが、情けねえ」
血をぺっと吐き出し、自嘲気味に笑う、影。

壁にぐたりと寄りかかった彼は、身体中血だらけで、起きあがるのもままならないようだった。
崩れたリーゼントの髪に、ピアスを開けた猫耳が揺れている。

──彼の名はワルニャン。
孤高のワルで、この辺りの住人は誰一人彼を恐れて近付かないような、男。
今日はどうやら、一悶着あったらしい。
しかもボロボロに負けてしまったらしく、裏路地で血を流す彼に近づく阿呆は、あるはずもなかった。

「…くそ」
動けねえ。自分の体に内心毒づく。
足を折られ、切りつけられ、馬鹿な頭で考えられる限りの暴力は受けた。
ただ、通学路で猫を追い掛けていたら、肩と肩がぶつかっただけなのに。

そんなことでいちいちキレるあいつらの頭もおかしいが、通学中に猫を追いかけてしまう自分も相当イかれてる。
あー、と、苛立ちを声に出せば、近くに寄ってきた野良猫すら逃げていった。

髪をぐしゃぐしゃと乱す手の甲に、冷たさを感じた。
──天まで俺を嗤ってやがる。
雨に舌打ちをすれば、いよいよ本降りの水滴がワルニャンの体を穿った。


まずい。このままではまずい、と、喧嘩慣れした体が警告を発する。
流れる血が多すぎて、頭がくらくらしてきた。傷を咎められたせいで、熱まで出てきたらしい。
俺はここで終わっちまうのか、ワルニャンは静かにサングラスの下の瞳を閉じた。

──目の前に人影が現れたことは、気絶してしまった彼には知る由もなかった。
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