しょばろ。

□バトマグ 俺達の弱点。
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もう嫌だ。
鏡を見て卒倒しそうになる。
「痛ってぇ……」
首筋に付いた愛の痕────いや、オレ様の場合、調教の証……とでも言うか。
首輪で擦れた傷と噛み跡を撫でて、オレ様、デモンマングーは首を振った。



───いつだったか、バットの趣味が爆発したのは。
前々からAB型を見境なく襲うとんでもない蝙蝠だとは分かっていたけれど、まさか、その矛先がオレ様にまで向くとは予想外だった。

「マングー!お前、絶対これ!似合う!」
お洒落なチョーカーだな、と思って、気がつけば手を伸ばし首にそれを着けていた。
途端にバットの目が輝いて、んんんん!!と喉の奥から甘い声を出したから少し引いたものだ。
チョーカーにしては重たいそれを愛しげに指先で弄び、恍惚とした表情で
「マングー………首輪……似合うな…」
と。一言。

「これ首輪かよ!?!?」

ペットと同じものを着けられている、と気づいた瞬間オレ様はそれを外そうとしたけれど、よく見れば、バットの持つ重たげな鎖にしっかりと繋がれていて。

なしくずしに床に引き倒されて、牙がかち合う程激しくキスをされた。
「ば……馬鹿!な、に、して………」
「こんな逸材が傍にいたとは………堪らないな…マングー………」
バットの理性が吹き飛んだような瞳で見つめられると、心の奥で何かがちりちりとくすぐったく燃えた。
そのまま、────あとは想像に任せる。



とにかく、そんな事があってから毎日のように、オレ様は調教という名の行為をバットにされ続けている。
満更でもない、というのは内緒だ。



応接間に行くと、ご機嫌に「おはよう、マングー」と声がかかった。
途端にあの胸の底の火花がぱちんと散って、背筋を撫でられたようなもどかしい快感に襲われた。
…これも、恥ずかしながら、調教の成果というものだろう。
「お、はよ」
なんとか平静を装って一人がけのソファーに身体を沈めた。もちろん声の主はオレ様の“御主人様"、デモンバットだ。
足癖が悪い為、テーブルにだらしなく両足を投げ出して、しきりになにかを磨いている。
何となく察しはつくものの、気になったから訊いてみた。

「それ……何だ?」

ちらりとオレ様に視線を投げると、バットはにやりと笑って見せた。
「……昨日の。」
「……なっ………!?」
シルクのハンカチから覗いたのは確かに昨日使った玩具、俗に言うエネマグラ、というやつで。
オレ様が赤面して焦るのも、サディストであるバットには愉悦でしか無いのだろう。

「ばっ、バカ!!み、皆もうじき起きてくるだろ!!!?」
「んー?何か見られて問題でもあんのか?」
「ありまくりだろ!?」
オレ様が憤慨して胸ぐらを掴んだところで、足音がした。



「っ、と。邪魔したな」
包帯がはらりと揺れる。メンバーのデモンマミーだ。
「ちょ、待てっっ!!マミー誤解だ!!」
「俺はちょっとスモッグとタスマニアンデモン起こしてくるから」
じゃ!と立ち去ろうとするマミーを必死で引き留めるオレ様を、バットは愉しげに見つめていた。







「ん………だよっっ……!!」

結局誤解は解けたけれど、バットも酷い事をするものだ。オレ様に恥をかかせるのは、奴にとってひとつのプレイのようなものだとしてもだ。
とりあえず自分の部屋に逃げ込んでベッドに横になる。
バットの声や仕草は、無意識のうちに興奮の種になってしまうらしい。
ひとえに奴がオレ様をしつけながら植え付けた意識だった。

「もう限界」
やられっぱなしは、オレ様のプライドが許さなかった。
「バットの弱み見つけてやる」
天蓋から垂れ下がるカーテンを開くと、オレ様はバットの部屋に、バレないように潜り込んだ。







“う……わ、"
入ってすぐ目を覆いたくなる。
壁に取り付けられた手錠や枷は、いつもオレ様につけられているものだから。
そう、いつもあそこに手足を拘束されて、轡をされて唇を避けるように甘く何度も何度も…………
「……って」
馬鹿!!考えるな、考えたら負けだ…!
考えを振り払うように首を振って、改めてバットの部屋を物色に入る。


……というかそもそも、奴の恥じらいの定義が分からない。
昔の写真など定番のものを晒したところで、バンドメンバーは全員幼なじみだ。懐かしくなるだけだろう。
「はぁ…………」
仕返しなんてできないんだろうな、そう思ってため息をついた、その時。


ふわり、と、いい香りがした。
「?」
この豪華な調度品と美しい調教道具の中に、そんな香りを放つものは無かったはず。
でも足はそこに引き寄せられていく。
たどり着いたのはドレッサーだった。

「………何だ、これ」
綺麗なガラスの入れ物に、カラフルな何かが入っていた。
蓋を開けると、妖艶な香りがオレ様の脳髄を支配した。
「!?……ぁ……っ」
奴お得意の黒魔術か、と気付いたのは僅かな理性。
それは小さなマシュマロに過ぎなかった。香りの原因はこれだ。
食べたら最後、とは分かっているのに、手が言う事をきかない。
「ん……んぐぅ……」
ぱくり、口の中にマシュマロが入り込む。きゅんとすっぱいようなそれを食むと、途端に身体が熱を帯びた。


「あ……!?は、ぇっ…ぅ、そだ、ろ……」
媚薬なら何度か打ち込まれたことはあったけれど、ここまで即効性があり、さらにここまで強い疼きを誘うものは初めてだった。
立っていられず、その場に蹲る。
はーっ、はーっ、と荒くて短い呼吸が漏れた。
顔も身体も熱い。震えが止まらない。
どろどろに溶けきった頭で考えられるのはたった一つのことだった。



「バ………バット、さ、まッ」



何とか身体を起こしたものの、ふらついてしまった。そのままベッドに身体が崩れ落ちる。
「……!あ………!!」
ただでさえ甘い香りに苦しめられているのに、そこに御主人様……バットの香りがなだれ込んでくる。
「っふ………ぅうんっ、ッ………」
涙が出てきた。なんだかわからない。絶頂まで追い詰められたまま許されない時のような、そんな気持ちよくて苦しい感覚に支配される。


「バットさま、バットさまぁ………っ、た、すけ………て…」
無意識に懇願の声を上げ啜り泣いていた。
そんなもの届くはずも無いのに。
自分で扱くこともままならないほど苦しくて、オレ様は布団に顔を押し付け泣くしか無かった。





「………マングー」
ぎしっ、とベッドが傾く。
頭を撫でられているのが分かった。

……さっきから何分たったのだろう。きっと5分もたっていない。けどオレ様にとっては何時間にも思えるほど長い時間だった。

「お前は本当に、どこまで愛くなる」
聞き覚えのある、少しだけ掠れた低音。
「ぁ……あ、バット………っ」
精神的に最早限界で、オレ様はバットにすがりついた。
「それは俺が店の奴に作ってもらった特別な菓子だ。今夜のお前に、ご褒美のつもりで買ったんだがな」
……嘘だ。こんなものご褒美になるわけがない。おおかたオレ様をさらに乱すためのツールだったのだろう。

「バット、おねが……ぃ、たすけ、て……」
浅いところで呼吸を繰り返すオレ様を見つめ、バットはまた瞳を歪ませ笑う。
そしてフードを掴まれるのが分かった。
「俺は、何て呼べって言ったっけ?マングー」
「!、ごめ、ん、なさぃ……バット、さま、バットさまっっ」
何とか声を紡ぐと、バットはよくできました、とでも言うようにキスをくれた。
しかしすぐに唇を離され、昂ったオレ様の身体はまたおあずけを食らう。



「勝手にお菓子を食っちまうようなペットには、躾が必要だよな?」



薄れる理性の中、バットの声がオレ様を支配した。────









「あ!!あっぁっ……!ばっとぉ……!!」
バチッと音がして背中に痛みが走る。
「“様"を付けろ、と言ったよな?」
執拗なまでの言葉責めに常人なら引くだろうが、オレ様は遂にそこにすら興奮を見出しつつあった。
鞭で叩かれるのもそこから快楽が溢れるのを知っているから辛くなかった。


貞操帯で身体を拘束され、結局昂ったまま解放を許されない。布団の上にいるからいつもよりはまだマシだが、このままじゃまた、気を失ってしまう……

「ば、ばっ、と、さまぁ」
過度の興奮と運動で幾分か血色が良くなっているバットを見上げる。
オレ様が強制された呼び方で呼んでやると、うっとりと頬を掌で包まれた。
するとこれだけ酷い事をされているのに、とても、痛い程心地よかった。
「何だ?」
相手を服従させることを喜びとする奴には従順にしていた方が良いのは分かっていた。でももう我慢の限界だ。
「ぃ、ぅ……ひ、くぅ、っ……」
「いや、いけねぇよ。ここ、縛られたまんまだろ?見てみろ」
「!やだ、や、らぁ……ぁ、あ」
指先でぱちんと敏感な所をはじかれる。
痛くて熱くて、オレ様は枕を噛んでひたすら耐えた。



「まんぐ。ほら、あーん」
涙の滲む瞳を開けると、バットがあのマシュマロを摘んで差し出していた。
快楽を誘う香りに気が遠くなる。
「あぁー……ん」
嫌なのに、嫌なのに。咀嚼する度に甘酸っぱい味と痺れが襲ってくる。

「こっちには……コレ、な?」
「っひぁっ!?」
どろどろになった秘部に冷たくて固い何かを突っ込まれる。
勿論察しはついた。玩具……それも球体が連なって、奥深くまで貫くアレ、だ。
「う、そ、ぁ、あぁ、やめ、やめて、ふぁっ」
「や、だ、ね。」
下半身が麻痺するほどの刺激。
ぐりゅっ、と中で嫌な感触がした。
「あ、あっあぁっ!!ばっと、さまぁ!!!!ひっぁあ、むりぃ!!!むりですっ!!!ごめ、なさぃいっ!!」
「ここか。お前の、イイとこ。」
いつもなら泣いて悦ぶほど気持ちいいのに、今日は“お仕置き"だからか、絶対にオレ様のやりたいようにさせてくれなかった。


「ひとつ目」
「あ、ふぁ………で、でぅ………、」
球体が1つだけ外に出る。出来た空間がどくどくと波打っているのが分かった。
「ふたつ目」
もう1つ。空間が広がって、じわりと蜜が滲むのを感じた。
そして3つ目を、……の、途中で。
「出さねえよ」
また、一気に奥まで挿し入れられた。
これには、オレ様も対応しきれなかった。

「──あ、ひっ、ぅァあァァッ!!!!」
オレ様は情けなく、縛られたまま、雌のように高く啼いて達した。




「……は、はは、本当にここまで染まるなんて、マングー、お前は最高だ……」
玩具を引き抜かれて、ぐったりとなったオレ様の身体はビクッと敏感に跳ねる。

「ばっと、さま………おゆるし、くだ、さっ………ばっとさま……」
うわ言のように呟き続けるオレ様に満足したのだろう。
「可愛いから、もう許してやろう。……ほら、」
バットは屹立に結ばれた帯を解いてくれた。


すくい上げるように抱き締められ、対面する形で膝に乗せられる。
「達する許可をやる」
ぐりっ、と膝で圧されると、とうに限界を迎えていたオレ様の身体は、素直に白濁を吐き出した。
「ぁっあ、ひぁぁ………っ、すき、すきだ、すきだ、ばっと、ッ」
絶えずバットの腹を汚しながら、オレ様は何度そう口走っただろう。
うるさい、とでも言うように呼吸を奪うキスをされる。
蝙蝠はキスが長い、という習性を最近知ったけれど、本当だなと思う。



「俺もだ、マングー」



甘く優しい享楽に溺れて遠のく意識が、バットのキスで暗転した。









「──……はッ!?」
がばっ、と起き上がると、下腹部に僅かな痛みが走った。
「おお、起きたか」
バットを見て、なんでこうなったかをひとしきり思いだし、オレ様は頬を染める。

「もう夕方だぞ?ったく、善がり狂って気ィ失って、そのまんま寝続けやがって」
「……ごめん」
「謝んなくてもいいけどよ」
オレ様の目はふとバットの持つガラス容器にとまった。

「!!!!」
口を押さえ青ざめたオレ様に、バットはへらへらと笑う。
「もうこれは捨てるから心配すんなって。さっきマミーに渡そうとしたらぶん殴られたし。」
1回試したものを使っても新鮮味がない、とのことだ。オレ様にはよく分からないが。



「んな事よりさー、お前何で俺の部屋入ったんだ?」
バットが淹れてきた紅茶のマグカップを受け取ると、1口飲んだ。
「……あ、いや」
まさか『弱みを探してた』などとは言えない。
「もしかして、俺の弱点探し??」
───顔に出ていたらしく、あっけなくバレたが。
正直に頷くと、バットは吹き出した。


「バーカ。俺に弱点なんてねーっつの!」
「い、いつも辱められるから、ちょっと仕返ししたかっただけだ!!」
照れ隠しに紅茶をもう一度啜る。レモンが唇に当たって酸っぱい味がした。


「フン、弱みか。強いて言うならお前だよお前」
バットはあっけらかんと口にする。
オレ様がぽかんとしていると、奴は続けた。
「お前の事狙う奴らは全員ぶっ殺したくなるしな。つまりは1番大切にしてて人に盗られたくない、俺唯一の弱みだよ」
言葉の意味をゆっくり解釈していくと、なんだかとても恥ずかしくなった。


「〜〜〜〜ッ!!!!バーーーーカ!!!!」
部屋を出て自室に引き篭もる。
内側から鍵をかけて、ふう、と一息ついた。

ふと鏡が目に留まる。

「あ」
また傷痕が増えていた。
視線を上にやれば、そこには微笑んでいるオレ様がいて。
「………ふふっ」


───弱み、か。
オレ様も、同じ様なものかもしれないな。




……冗談だって!!そんな怒るなよ!!!!


バットの声がする。
毒されていくのも悪くないし、染められるのだって幸せだ。






「好きだぜ、バット」






───オレ様は口の中でその言葉を何度も噛み砕き、そっと飲み込んだ。



end
 

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