腐った寿司

□ペッケレ Dummy Flower
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「ん、遅かったな、珍しい」
このカジノで同じくボディーガードをしている、ペッテン・クローバ。
緑色の特徴的な長髪がふわふわと揺れた。
こうして改めて彼を見れば、殆どが自分と“お揃い”である。
それに気付くと、ケレンミは不意にクスリと笑った。
「どうした?」
「…いや、何でもない」
本心から零れる笑みに理由など無いのだから。


「今日の依頼は特に無いから…ディーラー、やれって」
はーぁ、と呆れたようにペッテンが手帳を閉じた。
「ディーラーやってるよりお前とチェスしてる方が気楽だよ」
「…ま、それには同感だな」

ボディーガードの仕事なんて暇なものだ。
依頼が入らなければこの様、一日中ホールで、失う物のないギャンブルを嗜む事になる。
依頼が入ったら、依頼主は自分達の「主人」になるから、絶対に護らなくてはいけなくなる。
主人の言うことは絶対。どれだけ頭にくることがあっても、撃ち殺すなんて事はいけない。
……例え、主人の色欲の捌け口になろうとも。
この仕事はそういうものだから。

「…ケレンミ?」
ペッテンに名前を呼ばれケレンミははっとする。
「…ああ悪い、少し物思いに耽っていた所だ」
ペッテンは不審そうに首を傾げた。

「お前そういえば、最近一人で仕事こなすようになったな」
彼の言葉は真実である。
最近、同じ女性から、何度も一人だけで仕事を依頼されていた。
「…そんな事、お前もだろう」
「?いやいや…お前ほど重宝されたことは無いから…」
ペッテンが何を言いたいのかはよく分からなかった。
ただ、一人で仕事というのは寂しいものである。いつもは二人でいるのだから。
…時折、ホールで愉しげに客と話すペッテンを見て、何とも言えない気持ちになることはあった。

“何考えてんだか。”そんな自分に辟易して、ケレンミはまだ僅かに頭痛が残る頭を小突いた。
「あーあー、またローズがヘマしてる……ありゃあまずいな…俺、手伝ってくるから。ケレンミ、ダミー手伝いに行ってくれ」
「了解」
ペッテンが走っていくのを見届けてから、ケレンミは自分より幾分小さなディーラー、ダミーの元へと歩いた。
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