小説

□魔女遊戯
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「っ……くそ」
冷たい石造りの、暗い建物。同じく冷たい地面に横たわる少年は、唇を噛み締めてぎゅっと瞼を閉じた。その姿は裸で、布切れひとつ、下着ひとつ見当たらない。唯一の装備は、手足を繋ぐ鎖だけだった。
「さむい……」
裸でいるのだから当然だが、ここに連れられてからずっと、少年は寒さに教われていた。身体を丸めて熱を逃がさぬようにしようにも、手足の鎖が許さない。
出来ることと言えば、壁に立て掛けられたたいまつに近づいてささやかな暖を取ることぐらいなものだった。無論四肢を縛られた状態ゆえ、姿は大変みっともない。自覚はあるが、仕方がないと割りきることにした。背に腹は代えられない、という言葉を思い出す。
そう、今必要なのは冷静に考えることなのだ。ならばこの胸に溢れる怒りは押さえなければならない。
少年はふう、とやや大袈裟にため息をついた。それからごろりとたいまつに身体を向けるように寝返りをうつ。少年の身体が赤っぽい光に照らされ、露になる。腹にも腿にも無駄な肉のついていない、すらりとした華奢な身体。顔つきは12歳という年相応に幼く、体毛も薄い。
少年はふと自身の身体を見やる。視界に映ったのは幼さを残した柔肌。身体のどこを見ても、傷ひとつ見当たらなかった。これが不思議なことだった。
なぜならば、ここに捕らえられる前に、敵である魔女に相当傷つけられたはずだったからだ。それが起きてみたら綺麗に治癒されている。解放するというわけでもなく。意味がわからなかった。だからこそ、恐怖が生まれるのだ。
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