カフェ・ギムナジウム
□2.乙女たちの楽園
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コーヒーとブール・ノワゼット(焦がしバター)、それにカラメルソースの香りが鼻腔をくすぐります。
バロック調のクラシック音楽が耳に心地よく響きます。
アーチ窓はビロードのカーテンでふちどられ、天井からはシャンデリア、壁には大きな柱時計、煉瓦の暖炉、アンティークなオルゴール。
テーブルはマホガニー製で、猫脚には薔薇の彫刻が施されております。椅子も旧きよき時代を思わせる、座面と背もたれが蔓薔薇や野いちごなどの柄のゴブラン織りです。
「いらっしゃいませ。お一人様でございますか?」
ブルーグレーのブレザーの制服に、メタルフレームの眼鏡がよく似合う、長身の「生徒」が笑顔で出迎えてくれました。彼はスマートに、貴女をカウンター席までエスコートします。
「カウンター席で申し訳ございません。ただいま室内が混み合いまして」
平日で、しかも食事時でもないのに「室内」は女性客でいっぱい。さすがにネットや雑誌で話題になるだけのことはありますね。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください」
差し出されたメニューは、まるで高級レストランのそれであるかのように革で装丁されています。
先ほどの眼鏡の生徒は神楽坂理央(かぐらざか りお)と申しまして…ああ、名札をチェックなさったのですね。さすがはお嬢様です。
彼は公式サイトの人気投票で一位の生徒です。ここではホール担当の従業員を「生徒」、調理師やパティシエ及びバリスタは「教授」、店内は外国の寄宿学校の談話室をイメージしていますから「室内」、この建物は「学院」、営業時間ではなく「授業時間」とお呼びください。ああ、ちなみにオーナーは「院長」ですよ。
ほかの生徒もご覧になりますか?