カフェ・ギムナジウム
□5.ビクトリアンの楽園
1ページ/4ページ
さあどうぞ、お嬢様。薔薇のアーチをくぐり、木製の扉をひらくと、そこは禁断の花園――
すっかりこのカフェがお気に召したようですね。
「いらっしゃいませ。お一人様ですね」
本日はアドニス・漣・水無月のエスコートです。
彼はヨーロッパでも社交界デビューしておりますから、立ち居振る舞いも洗練されて美しいですね。椅子を引く仕草もとても自然です。
今、彼のネクタイピンをご覧になりましたね?
本日は何になさいますか?
はあ…、来る『乙フェス』のための資金確保で節約のため、紅茶のみですか。そのようなお客様も結構いらっしゃいますよ。
特に常連さんは、毎回スイーツを注文していては破産する、と。
ほら、あちらからトレーを持った神楽坂理央が参ります。
アドニスとすれ違いざま、ネクタイの位置をなおしておりますね。
理央が普段からアドニスのことをよく見ている証拠です。
お返しにアドニスはその細い指先で、理央の眼鏡をなおし――いえ、眼鏡はズレていませんでしたから、単なるじゃれあいでしょうか。