カフェ・ギムナジウム
□8.背徳の楽園
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温かみのある煉瓦造りの学院は、全ての明かりが消されると、ひんやりと無機質に見える。
外灯だけに照らされたアーチの薔薇も、学院に添えられた花というよりは、外部からの侵入を阻止する棘のようだ。
玄関にいちばん近いアーチ窓の下、煉瓦の壁際に制服姿で膝をかかえて座る、宇佐美ミツキがいる。あのはじけるような笑顔は無い。外灯を受けて輝く瞳は、いつもの屈託の無いそれではなく、涙を溜めているようだ。ふいにカリッという音が響いた。ミツキが舐めていた飴を噛んだ。
「ミツキ…こんな所に呼び出して何だ?」
剣虎牙が不機嫌そうに、壁際で丸くなっているミツキを見下ろしていた。
「わかってるだろ、ボクが呼んだ理由」
地面に目線を落としたまま、ミツキが答える。
スラックスのポケットに手を入れ立ちつくす虎牙に目線を合わせるように、ミツキは勢いよく立ち上がった。
「やっぱ虎牙にはわかんないよね」
無理に笑うミツキに、虎牙は眉をひそめて問いかけた。
「オレが何かしたのか?」
ミツキはかぶりを振った。
「してないよ。してないから…呼んだんじゃないか」
意味がわからず口を開きかけた虎牙を遮るように、ミツキの手が虎牙のジャケットの襟をつかむ。
「ミツキ…?」