カフェ・ギムナジウム
□4.黄昏の楽園
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○月◇日
こんにちは、神楽坂理央です。室内に新しい本が入りました。
マシュー・アーノルド「二つの世界の間に」、E.M.フォースター「モーリス」どちらも僕のおすすめです。
…ほかに何を書くか忘れた。すみません。隣でアドニスが僕の髪をしきりにいじるので。
アドニス、眼鏡を取ろうとするのは止めてほしいな。
○月▽日
皆様、こんにちは。天羽鷲一です。今日は午後からの授業なので、アーチェリーの練習をしてから行きます。
鷹二が最近、ヴァイオリンの練習に夢中になりすぎるので食生活を心配して、先日は一緒に食事に行きました。相変わらず食が細くて運動不足。
俺と一緒にスポーツをしたほうがいいのかな…。
○月○日
昨日、パパから新しいシャツが送られて来ました。学院の制服と同じ白だから、着てみようかな。院長も怒らないよね?
あ、ネクタイピンは自由なんだよね。僕と理央、お揃いのネクタイピン使ってるって知ってた?
アドニス・漣・水無月
ブログを更新し、パソコンをシャットダウンさせる。壁の時計を見ると、午後十一時。
「おや、もうこんな時間か」
森田は鞄を開け、帰り支度をする。
「毎回、ブログのネタを考えるのも大変だ…」
誰もが面倒くさがって書かないブログを、森田が代筆している。
時には妄想力がたくましい院長がネタを提供するが、今日はあいにく『乙フェス』関連の業者回りをしていて留守だ。
今日も乙女たちはブログを見る。好きな生徒の日記が待ち遠しい。
華やかなりし青春の園。パソコンという文明の利器があろうとも、乙女たちにとっては十九世紀末のアール=ヌーヴォー、石畳には馬車の轍、辻音楽師の手回しオルガン、花売りや新聞売りの声、おお、ラ・ヴィ・アン・ローズはここにあり。
そして深夜の石畳ならぬアスファルトをとぼとぼ歩き、馬車ならぬ電車を待つ哀愁のサラリーマンの姿はここにあり。