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□俺にしやがれ!
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「もう!!!なんだってのよ!!
いつもいつも買い物だとか修行だとかいって、結局浮気してんじゃない!!!」
まだ太陽も真上にあるような真っ昼間。
大声と共に、ガシャーンという鋭い音がリビングから響く。
それは重力室から出てきて一休みしていたベジータの耳にもハッキリと届いていた。
しばらくすると、庭に飛び出し大声で泣きながら車に乗り込む女の姿が見える。
「……チッ。またか。」
飲み干したミネラルウォーターのボトルをグシャッと片手で握り潰しながらベジータは悪態をつく。
ここ最近、毎日あの二人の言い合いが絶えない。
まあ、言い合いといっても、喚き散らしているのはあの女だけで、男のほうはただ頭を下げているだけのようだが。
どちらにせよ俺には関係のないことだ。
ベジータは思いながら食事をとるため、騒動のおさまったリビングへと足を踏み入れる。
ソファではヤムチャが放心状態で寝転がっていた。
入ってきたベジータを見ると、曖昧に笑う。
「修行終わったのか?」
「…休憩だ。
貴様らの痴話喧嘩が聞くに絶えんほど耳障りで集中力が落ちた。」
「ははっ。言ってくれるよなあ………。」
言いながらヤムチャが身体を起こして座る。
ベジータは冷蔵庫の中を引っ掻き回し、食べられそうなものをテーブルに置いていく。
「なんだかんだ、ああやって怒ってくれるってことは、俺のコトを愛してるってことなんだよなぁ。
俺って幸せものだよ、まったく。」
ヤムチャが頷きながら一人呟く。
ベジータは全く聞こえないというように無視をしていた。
あれほどまでに女を怒鳴らせて置いて、どうしてそんな解釈が出来るのかベジータには謎だった。
そんな風に呆れているベジータをよそにヤムチャは続ける。
「喧嘩したって、プレゼントがあれば大抵機嫌はなおるし。
服とか髪型を毎回褒めれば喜ぶし。
喧嘩なんてのは昔っからしてるしな。
これしきのことで俺もへこたれてられないというか。」
「……………おい。」
聞きたくなくても耳に入るヤムチャの独り言にベジータは思わず眉を寄せる。
「貴様、
同じコトばかり繰り返してなにが面白い。」
「へ??」
ヤムチャが目を丸くする。
ベジータは構わず冷蔵庫を漁り続けた。
「機嫌が直ればなにもなかったことになるのか。
ご機嫌とりの方法が上手いだけで、なんの学習もしとらんようだな。」
「な……なんだよ!知ったようなコトいって。
俺はなあ、お前より遥かに長くブルマと居るんだぞ。
あいつのことなら、よくわかってるんだ。」
腕組みをしながら頷くヤムチャ。
ベジータはようやく冷蔵庫を閉めてこちらへやってくると、テーブルの上の食材を一人かきこみはじめた。
俺もなにをいちいちこんなクズに突っ掛かっていやがるんだ。
こいつらが喧嘩しようが、
あいつが泣きわめこうが、
俺にはなんの関係もないだろうに。
ベジータはブルマの泣き顔を思い出しながら食べ物を嚥下する。
あの飄々とした下品で脳天気な女は、
いろんな奴らを惨殺してきた俺を恐れもせずまるでこの男やカカロットと同じように扱う。
調子が狂うから、気に留めるべきではないと自分に言い聞かせていた。
地球に来て、ここに居座るようになったベジータが初めて自分に意見したことに
ヤムチャは驚いていたため、黙ったまま怖い顔をしているベジータとの空間に耐え切れなくなり、苦笑いをしながら立ち上がる。
「まあとりあえず今日は帰るよ。
ブルマが帰ってきたら、"ゴメン"って伝えてくれないか。」
「そんなものてめえで言いやがれ。」
言おうとした言葉は口の中の食べ物の存在により発することができなかった。
ヤムチャはそのままリビングを出ていく。
やがて食事を終えたベジータは最後にミネラルウォーターを飲むとトレーニングを再開すべく重力室へと戻った。