蒼月録
□―第二幕・心通わす・―
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美しい紅葉が散り行く境内を掃く蓮華。秋風がふわりと横を通り過ぎてゆくのを感じながら、落ち葉を集めていた。
「…紅の深き道なる秋の風…なんて」
ぼんやりとそんな句を口ずさんでいると、裏の森の中から葉擦れの音が聞こえてきた。
「ん?何だろう…」
箒を置き、音のする方へ向かうと、そこには翼に傷を負った鷲の姿が。
「怪我してる…手当てしないと…!」
と、鷲のところへ駆けるが、
「キイイィィイイ!!」
「――っ!」
キッと眼を細くし、翼を広げて威嚇されてしまった。
しかし蓮華は臆することなくそばへ行く。
「大丈夫よ。私はあなたを助けたいだけ…何もしないわ。だから、ね?」
しかし、鷲はずっと睨み続けてくる。
「…お願い。私にあなたの手当てをさせて?傷ついてる姿なんて見たくないの」
お願い…と鷲の目をじっと見つめて言うと、威嚇を解き、頭を垂れた。
まるで、そうしてくれとでもいうように。
「――!!ありがとう!じゃあ、行きましょう」
蓮華は鷲をそっと抱き腕の中に収めると、出来るだけいそいで部屋へ戻った。
「…これでよし。と」
包帯をそっと巻いて、ニコリとほほ笑む。
「大人しくしててくれてありがとう。おかげでとっても治療しやすかったわ」
「クゥ」
「まだあまり動かさないでね。傷が癒えたら飛んでも大丈夫よ」
「キィ((了解した))」
鷲が答えた途端、同時に彼女の頭の中に若い男の声がした。
((助けていただき、感謝いたします。私の名は來羅<きら>といいます、巫女様))
はっと鷲を見れば、意を汲んだかのように頷く…声の主は、どうやらこの鷲らしい。
「あなたが…私に…?」
((はい、もちろん))
おずおずと聞くと、あっさりと返ってきた。
((龍の力でございます。お気になさらず))
「…そう、なの…」
((ここでお会いしたのも何かの縁…私に出来る事がございましたら、何なりと申し付け下さい。巫女様))
片翼を広げ項垂れる來羅に蓮華は頭を上げるように言った。
「蓮華でいいわ。そんな、巫女様なんてよして?…これからよろしくね、來羅」
優しく微笑む蓮華に、來羅も一鳴きして答える。
こうして、新しい力の目覚めとともに、大切な相棒が出来た蓮華であった。