蒼月録

□―第六幕・事情と入隊・―
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次の日、幹部たちが集められた部屋の中。真ん中に焔は一人座っていた。



(どうしよう…マジで気まずい…ていうか、皆揃ってる…揃ってしまっている…!!なんだよこれ、俺にどうしろってんだ!そうか、萌殺したいんだな!!そうなんだな!!!)


心中全く穏やかではなかったが。



「そう固く成らんでもいい。別に、悪いようにわしないさ…俺は新選組局長の近藤勇。で、こっちが総長の山南敬介。で、こっちのトシ…土方歳三は副長を務めて「近藤さん!!何いろいろと教えてやってんだよ!!」」


と、隣に座っていた土方が近藤を止めに入る。当の本人はキョトンとしているが。


「これから詮議する相手に、自己紹介はねぇんじゃねーの?」


上半身をほとんど露出させるような服装で、まあ素晴らしい肉体美の男――二番組組長・永倉新八が言うと、隣に座ってる赤髪に金瞳のまたまた美しい肉体と柔らかい雰囲気を醸し出す、十番組組長原田左之助が、


「まあ、そんな馬鹿正直なところが近藤さんらしいっちゃらしいんだがな」


とぼやいた。



「――っ…まあ良い。では、昨日のことについて詳しい説明をしてくれるか?斉藤君」


そう近藤が促すと、斉藤は一つ頷いて焔へと視線を移し、話した。


「…昨日の昼の巡察の際、浪士たちに絡まれている彼を見つけたのですが、我らが手を出す間もなくこの者が一人で片づけました。そのご、取り敢えず浪士たちを捕縛。彼とも一度別れました。この件については副長に報告済みで
す」

「ここまでで何か間違いはないかね?」


ぼーっと聞いていた焔は、その問いかけにハッと意識を戻した。


「あ、はい。大丈夫です」

「では、続きを」

「はい。そして昨晩、失敗した隊士らが脱走。追っていた折彼らと刃を交える彼を発見しましたが、迂闊に中へ入れなかったため総司と陰で監視。結局彼らはこの者がすべて始末しました」

「いやー凄かったですよ?僕ですら動きが読めなかったですし」


にやりと笑いながら焔を見て沖田が言う。


「昼間は俺の安らぎの時間を邪魔されて、その上嫌がる女の人に無理矢理手を出してたからちょっと痛めつけただけ。夜は酔った浪士に絡まれて、逃げてたらあの変なのにまで絡まれたから仕方なく斬ったんだよ。まだ死にたくなかったし」


だんだんと落ち着いてきた焔はいつものようにざっと捲し立てた。言い終わったとき、周りに流れたのは呆れと驚愕だった。


「確か、昼間の浪士は煙管でやったと聞いたのだが…」


と近藤が聞くと、あぁ…と懐に手を入れながら、


「刀抜くの面倒だったし、あんな雑魚相手に抜いたら刀が可哀想だと思ったから…あった。これです」


そう言って近藤の前へ煙管を出す。


「本当にただの煙管だな」

「ちょっと違う所と言ったら、他のに比べて強度が高いのと少し重い位ですよ。それ以外は何の変哲もないただの煙管です」

「…確かに。使用した後もありますね」


隣から見ていた山南もうんと頷いた。


「でもよー、ホントに煙管なんかでそんなことできんの?」


そう口走ったのは、高く結い上げた茶髪に大きな瞳。まだ幼さの残る顔立ちをした八番組組長藤堂平助。


「じゃあ試してみる?」













その瞬間、平助の首元には焔が煙管を突き付けていた。




「−っ!!?」

「こいつ、何時の間に!!」



ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら。




「一応あなたよりは年上なんだけど…?」

「は?いや、どう見ても平助と同じ…」

「俺は二三だ」







「「「「「はあっ!?」」」」」








「僕よりも上じゃない、一個だけだけど」

「さ、斉藤と平助の三つ上…だと!?」

「…詮議の最中だぞ、お前ら」


眉間に深い皺を刻んだ土方がどすの効いた声で言うと、全員静かに席に着き直す。


「……で、俺を殺しますか?見られたくないものだったんでしょう、あれ」


話を戻す為にそういうと、土方はため息をついた。


「…そうしたいところだが、お前は剣の腕がたつみてーだからな……いきなりだが、新選組に入る気はねえか?」


その言葉に幹部は騒然とした。


「おいおい本気か!土方さん!!」

「そうだよ!こんなどこの馬の骨かもわからねーっていうのに!?」

「まあ…土方さんがそういうなら、それなりの理由があるんだろうけどよ…」

「あ、結局そうなるんですね」


口ぐちに言う幹部たちに深いため息を一つ付くとはなしだした。 


「まあ、お前らの言い分もわからんでもない。だが、一人でも多く強い奴は入れておきたい。ま、こいつが長州の間者でなければ…の話だが」

「俺、長州じゃないです。というか、どの藩にも属していません」

「どういうこと?」

「…俺が京の都へ来たのは、親…というか、用済みになったので殺されかけたんですよ。死ぬ間際まで行きましたが…で、行くあてなんて何処にも無いから、死ぬ前に京の都くらいは見ておきたいと思って」

「なるほど…故にどの藩にも属していない…と」


そうだと斉藤の言葉にこくりと頷く。じっと沖田がその顔を見ていたことには気づいて居なかった様だが。


「なら話は早い。入るか、入らないか…どっち道、てめぇがあれを見ちまった以上、タダではおけねぇ。本来ならば斬る所だが、腕は立つみてえだからな…さあ、どうする?」
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