詰め合わせ
□引け目
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「行ったよ」
『ありがとう。お母さん』
店の物陰からヒョッコリと現れたななし。
手にはお盆が抱えられていて、仕事中だったことは一目瞭然。
「まったく。天火君、悲しそうやったよ。つまらん意地張らんと、出て来たったら良かったのに」
『……だって、天火さん。いっぱい贈り物 貰ってたもの』
天火に会わなかった理由。それは軽い引け目を感じていたからだった。
天火は人気者で、見ての通り 行く先々で祝ってもらっている。
あの反抗期真っ盛りの空丸君だって、祝ってやると張り切っているくらいで。白子さんも天火さんの欲しがっていたものを贈ると云っていた。宙太郎君は一生懸命 絵をかいていたっけ。
それに比べ、私は天火さんの欲しがっているものは何一つ知らない(教えてくれとそれとなく云ってみたが、話を逸らされた)。
そんな私の贈り物なんて、天火さんは喜んでくれるだろうか?だいたいのものは町の人が贈っているはずだ。
『…喜んでくれるはずない』
「天火君はあんたの贈る物なら何でも喜ぶと思うけどねぇ…。
それこそ、あんた自身をあげたらどうだい?贈り物は私…とか!」
『そんな笑顔で何云っちゃってくれてんの⁉︎お客様 居る中で何云ってんの‼︎?』
ケラケラと笑う母。気不味そうに茶をすする客。中には教育上よろしくない言葉が発せられる事も…。
「ななしちゃん、まだ天火君に捧げてなかったのかい!」
「天火君も奥手だねぇ!」
「大切にしてっからな」
入り口から発せられた声にバッと振り向く。おじさん達の顔は引きつっていた。
皆が振り向く中、ななしだけが振り向けないでいた。背後からはスタスタと確かに近ずいてくる足音。真後まで足音が近付き、肩にポンと手が置かれる。
ななしはヒィッと小さく悲鳴をあげた。
「もー、やだわ おっちゃんったら。うちの可愛い子を虐めないでくれますぅ?」
「ご、ごめんな 天火君。ななしちゃんが初々しくてつい…」
「おばちゃん、ななし 借りてくな」
「返却は何時でもええよ」
有無を云わさずに、肩に回された手に力を入れられて そのまま歩く。
天火の雰囲気が先程と違うせいか、ななしがいるせいか誰も話しかけようとしない。
どんどん町から離れ、人気の少ない方へ無言で連れて行かれているようで、ななしはガタガタと震えていた。