詰め合わせ

□引け目
2ページ/4ページ


「行ったよ」

『ありがとう。お母さん』


店の物陰からヒョッコリと現れたななし。
手にはお盆が抱えられていて、仕事中だったことは一目瞭然。


「まったく。天火君、悲しそうやったよ。つまらん意地張らんと、出て来たったら良かったのに」

『……だって、天火さん。いっぱい贈り物 貰ってたもの』


天火に会わなかった理由。それは軽い引け目を感じていたからだった。
天火は人気者で、見ての通り 行く先々で祝ってもらっている。

あの反抗期真っ盛りの空丸君だって、祝ってやると張り切っているくらいで。白子さんも天火さんの欲しがっていたものを贈ると云っていた。宙太郎君は一生懸命 絵をかいていたっけ。
それに比べ、私は天火さんの欲しがっているものは何一つ知らない(教えてくれとそれとなく云ってみたが、話を逸らされた)。
そんな私の贈り物なんて、天火さんは喜んでくれるだろうか?だいたいのものは町の人が贈っているはずだ。


『…喜んでくれるはずない』

「天火君はあんたの贈る物なら何でも喜ぶと思うけどねぇ…。
それこそ、あんた自身をあげたらどうだい?贈り物は私…とか!」

『そんな笑顔で何云っちゃってくれてんの⁉︎お客様 居る中で何云ってんの‼︎?』


ケラケラと笑う母。気不味そうに茶をすする客。中には教育上よろしくない言葉が発せられる事も…。


「ななしちゃん、まだ天火君に捧げてなかったのかい!」

「天火君も奥手だねぇ!」

「大切にしてっからな」


入り口から発せられた声にバッと振り向く。おじさん達の顔は引きつっていた。

皆が振り向く中、ななしだけが振り向けないでいた。背後からはスタスタと確かに近ずいてくる足音。真後まで足音が近付き、肩にポンと手が置かれる。
ななしはヒィッと小さく悲鳴をあげた。


「もー、やだわ おっちゃんったら。うちの可愛い子を虐めないでくれますぅ?」

「ご、ごめんな 天火君。ななしちゃんが初々しくてつい…」

「おばちゃん、ななし 借りてくな」

「返却は何時でもええよ」


有無を云わさずに、肩に回された手に力を入れられて そのまま歩く。
天火の雰囲気が先程と違うせいか、ななしがいるせいか誰も話しかけようとしない。
どんどん町から離れ、人気の少ない方へ無言で連れて行かれているようで、ななしはガタガタと震えていた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ