職場で繋がる
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『…父様』
「灯…聞いていたのか」
『ええ。
海外へ行くという話、丁重にお断りします』
休憩室から出てきた灯は父の前に立つと、深々と頭を下げた。
「…理由を聞いても?」
『確かに、肉親は父様だけ。
でも、血は繋がっていなくとも私にとっての家族は彼等なんです。
…ですから、お断りします』
きっぱりと云い切った灯を優しく見つめる父。
「…そうか。
本当にお前は母さん そっくりだよ。真っ直ぐで、優しくて、芯が強い。そんな娘に育ってくれた事、誇りに思っている」
コトリと置かれたカップ。
代金を天火へ渡し、店の外へ出ようとする父親を白子は呼び止める。
彼は首を傾げて白子を見据えた。こういった仕草は灯そっくりだと、天火達は思う。
「何かな?」
「灯を俺にくれませんか?」
「……?」
『……え?』
「「…は?」」
シリアスな空気に似合わない発言に、灯と父は訳の分からない顔をする。
天火と空丸は、有り得ないほど顔を顰めた。
錦は顔を赤く染め、小太郎は良くやったとでも云うように頷く。宙太郎は期待を膨らませるように目を輝かせた。
「ちょっと待て。何で このタイミング⁉︎」
「この時じゃないと灯の親に挨拶できないだろ?」
「だろ?じゃありませんよ!」
『…ぇ?ちょっ、え?』
「それは、プロポーズと とっていいかな?」
「はい」
ニッコリと掴み所なく笑う白子に灯はフラフラする。
行方不明の父が現れ、いきなりのプロポーズ。そろそろ理解の限界を迎えようとしている。
「あっ!灯姉‼︎」
「おっと」
結果、倒れた。
なんとか白子が受け止め、大事には至らずに済む。父は宙太郎以上に顔を輝かせて白子と目を合わせた。
「式はいつかな」
その場にいた白子と父、灯以外の全員が驚愕する。当たり前だ。予想以上に許しが早かったのだから。
こうして灯の意思とは関係無く、婚姻が決まった。