loud voice

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西暦2068年

揺らぐ蜃気楼、額からポタリと汗が流れ落ちる。
ジリジリと照り付ける太陽から逃れるように路地裏へ滑り込む。

日が一日中当たらない路地裏は普通の道よりも幾分か暑さが和らぐ。大通りからは私を呼ぶ数人の子供の声がした。


「ったく、何処に逃げた」

「逃げ足だけは速いな」


足音と声が遠ざかり、緊張していた手足がほぐれる。殴られた腹がズキズキと痛んだ。
一人では何も出来ないくせに仲間が集まると傲慢になる。気に入らない。

瞳を閉じて風を感じる。頬を軽く撫でた風はすぐに止んでしまうが、代わりに遠くで騒音が響いた。
大きな足音、何かが壊れる音、人の甲高い叫び声。


『アラガミ装甲壁が…破られた?』


路地裏から少しだけ顔を出す。
大通りは地獄絵図、といった言葉が当てはまるだろうか。
此処から約10軒ほど離れた家の先、一般にアラガミと呼ばれる生物が建物を破壊していた。

あの小さめのアラガミが食べているものはヒトだったもの。血塗れでグチャグチャのソレは肉塊と呼ぶに相応しい。


「たすけてっ!」


涙と鼻水と汗で無様な顔。
私を殴った少年だ。連れていた仲間は彼の側には居ない。
彼が仲間を見捨てたか、はたまた仲間が彼を見捨てたのか。これが人間の姿なのだろうか。何故か酷く心が冷めた。

彼は躓き、硬い地面に倒れ込む。手、足、顔は擦り傷で一杯。
泣き叫ぶ少年に対し、アラガミは無情にも大きな口をガパリと開ける。鋭い牙。あれに噛まれたら、さぞかし痛いだろう。


「……あ…れ…?」


少年はいつまでたっても来ない衝撃に恐る恐る目を開ける。
口を開けていたアラガミは少年の奥、路地裏にいる私に注意を向けていた。
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