詰め合わせ
□でも好き
1ページ/3ページ
「ちょ、ちょっと待て」
『何回目だよ』
私の目の前では顔を真っ赤にした天火が蹲っていた。
本日 何回目かのやり取り。
「今度こそ!」
『…』
顔を近づけ唇と唇が触れる直前、天火は勢い良く私から距離をとり再び蹲る。
実はこのやり取り、数週間前から続いている。
付き合ってから 手をつないだり、抱きしめられたりはした。
しかし、それ以上の事はした事がない。
……あれ?私達って健全なカップル?…付き合ってから約3年。高校1年より前から付き合っているから、もうすぐ高校卒業となる。
だめだ、健全だと云う自信がなくなってきた。
『…もういい』
「っ⁉」
『無理しなくていいよ』
「ななしっ!」
名前を呼ばれたが、風に背を押され 迷う事なく屋上の扉を開ける。
あと5分で始業時間だ、遅刻して堪るか。
まあ確かに天火の態度には苛ついたが愛してくれている気持ちは嫌でも伝わってくる事だし、別にキスくらい急がなくても良いと思う。
私達は私達のペースで良いじゃないか。
放課後
「…で、そのまま屋上を出たと?」
『うん、だって遅刻は嫌だもの』
「返事くらいしてあげればよかったでしょう!」
『うるさいー。だいたい、牡丹だって比良裏の事 無視しまくってるじゃないか。』
「なっ!ひ、比良裏殿の事は今は関係ないではありませんか!」
「ぼたんー」
「今は黙ってて下さい!」
ひょっこりと牡丹の後ろに現れた比良裏。
彼は牡丹の頭の上に顎を置くと、幸せそうに目を細める。
…うん、少し羨ましい。これが健全な高校生だよ。
私がため息を一つ漏らすと、比良裏は何かを思い出したように私へと顔を向けた。
「そういえば、ななし。」
『何かな?』
「天火と何かあったのか?
今 教室に行けば、きっと一足早い梅雨気分が味わえるだろうな」
『遠慮する。
まぁ、原因は私だろうけど』
比良裏に屋上であった出来事を話すと、彼は絶句した。
牡丹もいきなり静かになった比良裏に首を傾げる。
「比良裏殿?」
「…あいつ、本当に男か?」
『私もそろそろ分からなくなってきた』
「……お前からはしないのかよ」
『初めては好きな人からがいい…けど、そろそろ動くかなぁ。
待ちくたびれた』
私は荷物を持ち、二人に向かってニヤリと笑う。
比良裏と牡丹はななしの表情に顔を引きつらせた。
『てな訳で 二人とも、また明日。』
3年前から不動だった重い腰をやっと上げた。