詰め合わせ

□帰宅途中の幸福
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「あっ、ななしさん!」

『空丸くん⁉︎』


駅の前でキラキラと輝いて見える少年は間違いなく私の彼氏様だ。ああ、いつもどうり可愛くて格好いい。毎日 見る駅の入り口も彼がいるだけで輝いて見える。
…そうじゃない。何故彼が此処にいるのか、それが問題だ。
私と空丸くんは同じ地元に住んでいる。そして地元の駅から彼の高校と私の会社は逆方向。
だとすれば 空丸くんは学校からの帰り道、地元の駅を通り過ぎて私の会社の最寄駅へ来た事になる。何か急ぎの用事でもあったのだろうか。


『どうしたの、何かあった?』

「部活が早く終わったので迎えに来ました。迷惑でしたか?」

『そんな事ない!凄く嬉しいよ。
驚いただけ』


よかった、と安心して微笑む彼に見惚れた。汗で少し湿った髪と慈しむような優しい瞳。あとは彼を照らす月明かりと街灯。私はこの景色がとても好きだ。

空丸くんの方が歳下なのに、偶に私よりも大人っぽく見えてしまうのは今迄の努力の賜物なのだろう。特に長男のせいだ、きっと。


「じゃあ帰りましょうか。晩飯、迷惑じゃなければ俺の家で食べていきませんか?」

『いいの?急にお邪魔して迷惑じゃない?』

「大丈夫です!寧ろななしさんが来てくれた方が俺も皆も喜びますから」

『なら是非お願いします。空丸くんの手料理?』

「はい。簡単なやつですけど、これから作りますね」

『楽しみ。私にも手伝わせてね』


家事万能、気遣いも完璧。格好いいし、頼りにもなる。
私、完全に彼に惚れ込んじゃってるなぁ。そういえば最近は私の仕事や空丸くんの用事で擦れ違って会えなかったから、こんなふうに話せたのは久々だ。

仕事でも日常でも苛々する事は沢山あったのに、空丸くんを見たらどうでもよくなってしまう。今は幸せな気分で溢れ返ってる。私って現金な奴だな。


『空丸くん様々だよ。良いお嫁さんになれるね。私のお嫁さんにならない?』

「え、嫌です」

『即答⁉︎ちょ、恥ずかしい』


これでも結構本気だったんだけど。
一瞬にして顔に熱が上ってきた。空丸くんは真顔で断ってくるし、というか真顔どころか少し顔を歪めてるよ。お姉さん、すこし傷付いちゃう!


「お嫁さんになるのは俺じゃなくてななしさんです。これだけは絶対に譲れません」

『……私が、お嫁さんに?』

「そうですよ。
だから待ってて下さい。強くなって一人前になったら迎えに行きますから。
あ、電車来ましたね」


強い決意のこもった言葉に私は惚けた言葉しか返せなかった。これはプロポーズと受け取って宜しいのでしょうか、空丸サン。
どうしよう、元々惚れてたけど更に惚れ込んじゃう!前々から思ってたけど、この子 絶対に天然タラシだ。


『空丸くん』

「なんですか?」

『…今度は私が学校に迎えに行くね』


「(ななしさんが学校に…なんかいいな)」
 

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