詰め合わせ
□一生有効の約束を交わそう
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泣き虫三男、立ち上がるの続き
「ななしさーんっ‼︎出てきてほしいっス!」
叫んでも何も音は返ってこない。水面にも変化はなく、もう彼女はどこかへ行ってしまったのではないかという考えが宙太郎の頭の中で一瞬横切る。
それでも会いたくて、いると信じて宙太郎は叫び続けた。ななし、ななしと聞いている方が切なく成る程の声が響く。
「無理やり連れて行こうとしてごめんっス!ただななしさんともっと話したくて…この一週間でまた新しい話があるんスよ。オイラもっとななしさんと話したい!だから出てきてほしいっス‼︎」
チャプンと水面が微かに揺れた。
確信する、ななしはここにいると。
「出きてくれるまで帰らないっスよ」
梃子でも動かないと意味を込めてその場に座り込む。初めのうちはジッと水面を見つめていた宙太郎だが、次第に眠くなってきて意識を手放した。
夢を見る。ななしが楽しそうに歌っている夢。宙太郎が側にいるはずなのに、彼女には見えていないようで彼女は歌うことを止めると宙太郎の後ろを見てニッコリと笑った。
ななしの微笑む先には若い男の姿。男にも宙太郎の姿は見えないようで、ななしの方へ向かって歩き出す。男が宙太郎を通り過ぎる。男は後ろに短刀を隠していた。嫌な予感がする。宙太郎がいくら叫んでもななしに声は届かない。
男はななしに近づき、他愛ない話を少しして油断させてから その短刀を振り下とした。
「ななしさんッ‼︎」
『わっ⁉︎』
飛び起きると彼女がいた。宙太郎は喜びよりも安堵する。寝ていたはずなのに息が乱れて汗塗れだ。
宙太郎は汗を拭うよりも先にななしに抱きついた。ななしは首を傾げながらも今にも泣きそうな子供を抱きしめる。
「怖い夢を見たっス…ななしさんは本当に今ここにいるんスか?お願いっス、オイラの前から消えないで」
『……ごめんね、宙太郎君。君は大丈夫だって分かってたはずなのにね…どうしても怖くなって逃げたの。
でも宙太郎君と話せない日はつまらなくて、また独りになるのかと思ったら逃げた時の何倍も怖くって……ねえ、宙太郎君。私はこんな化物だけど、これからも仲良くしてくれる?』
「勿論っスよ。ななしさんこそ、もういなくならないでほしいっス」
『うん、約束』
指切りをして照れ臭そうに笑うと一週間分の間を埋めるように話をする二人。
草むらから凄い勢いで飛び出してきた天火に驚いたななしがまた湖に飛び込み、そのななしをまた湖から出すためにゲロ吉が一役買ったのはもう少し後の話だ。