詰め合わせ
□パンとチョコとマシュマロ
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「あっ、ソーマ。丁度良かった」
任務終わりにソーマがエントランスに寄ると何やら人だかりが出来ている。その人だかりの中から姿を現したのは困った顔をしたアリサだ。
ソーマは騒ぎの中心をチラリと見ると、またあいつかと溜息を吐いた。
「今回は何の騒ぎだ」
「今日はバレンタインですよ、ななしを狙いに来る悪い虫が山程いるんです。
なんとか助けたいんですけど人混みが邪魔で…」
「オペレーションはどうした」
「もう休憩時間です。あの人混みさえ如何にか出来ればヒバリさんと交代出来るんですけど」
「そうか」
大量の男衆の中に怖気ず進んでいくソーマの後ろ姿にアリサはニヤリと笑った。
「ソーマならそう言ってくれると思ってました」
コウタは頼りないし、リンドウさんは空気を読まずに一緒にたかりそうだし、ユウは忙しいし、適任なのはソーマしかいなかったんです。ソーマなら今後の牽制にもなりますしね。
「ななしさん、この後一緒にご飯でもどうですか?」
「いや、俺とお願いします!」
「この花を受け取っていただけませんか?」
『すまないが、これから休憩時間なんだ。どいてほしい』
「なら丁度良いですね。夕飯に行きましょう」
『この後は用事が…』
さっきから用事があると言ってるだろう、この分からず屋どもめ!
サクヤさん曰く今日はバレンタインという日でチョコレートを作り、大切な人にプレゼントする日らしい。
サクヤさん、リンドウさん、アリサ、ユウ、コウタ、ヒバリさん、ツバキさん、看護師さん、榊博士、防衛班の皆、居住区の少年には午前中会えたので渡せた。
残るは一つでそれをラッピングして任務から帰ってきているであろう奴に渡さなければならない。
しかしこの男達が邪魔だ。先程ここから出ようとすれば腕を掴まれた。アリサが助けようとしてくれていたが、今日に限ってこいつらは聞く耳を持たない。いっそ部屋に帰るのを諦めてこのままオペレーションを続けようか。
「悪いな、俺が先約だ」
男達の間に道ができる。まさか助けに来てくれた?
『ソーマ…』
「さっさと行くぞ」
『どこに?』
「アリサの部屋だ。今日は彼奴らとミーティングするんだろう」
『…そうだった。ごめん、忘れてたよ』
勿論そんな約束された覚えもなければ、した覚えもない。つまりこいつは助けに来てくれたのだ。腕を掴まれて男達の中を脱出、早々にエレベーターへと逃げ込んだ。
『助かった、ありがとう』
「まったくだ、任務終わりのこっちの身にもなってみろ」
『ああ、そういえば任務から帰ったばかりだったのか。なら私の部屋に来る?』
「……ちょっと待て、なんでそうなる」
『ご馳走するよ。この前良いものが手に入ってね、ほんのお詫びとお礼だ』
アレは甘すぎるだろうか?コーヒーと一緒に食べれば丁度良いかもしれない。
ソーマは溜息を吐いた。そんなに溜息ばかりしてたら幸せが逃げるぞ。すこし呆れたような、しかし嫌ではなさそうな顔…その溜息は肯定と取る。
『なら行こうか。部屋に吐いたら座ってて、私は用事をするから』
部屋に着くと私の言ったとうりソファーに座ったソーマは次の任務関係であろう資料を読み始めた。彼を傍目に早速準備に取り掛かる。
冷蔵庫から出したチョコレートを室温で程良く溶かし、その間に食パンの上にマシュマロを乗っけていく。準備ができたらチョコレートを砕き、マシュマロの上に乗せてトースターへ。
焼き時間にコーヒーを淹れてテーブルへ置くと、丁度食パンも焼けたようだ。
良い感じにマシュマロとチョコレートが溶けている。
『お待たせ』
資料を見る目を此方へ向けて、バレンタインの品を見ると彼は少し笑った。
しっかり手を合わせてから食パンに噛り付いたソーマは一言。
「美味い」
とだけ言って無言で食べ続けた。
美味いと言ってもらうのは悪い気はしない、寧ろ嬉しいものなのだとまた一つ貴方から学んだ。