詰め合わせ

□一時間半トラウマ寸前
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『また1時間半かぁ…』


なかなか一期さんと江雪さんは来ないなぁ。レアって言われてるから、そうやすやすとは来ないと分かってたけど。まさかここまでとは。


「主は何を求めているのですか?」


近侍の太郎さんが尋ねる。流石の彼も毎回落ち込んでいる私を見たら気になったらしい。まぁ、隠す事でもないか。


『粟田口の長男と左文字の長男が来てほしいなぁと思っているんですが、来る気配無しです』

「確か…一期一振殿と江雪左文字殿でしたか」

『はい、短刀達が喜ぶかと思いまして…ですが中々いらっしゃらないので、そろそろ1時間半の文字がトラウマになりそうです』

「運しかありませんね」

『そうですねぇ。あっ、欲張りですけど次郎さんも来て欲しいです』

「次郎…私の弟の事ですか?」

『それ以外に誰がいるんです。貴方にはいつも苦労をかけていますからね、弟さんがいれば気が休まる事もあるでしょう』


別の本丸の審神者による話では次郎太刀さんは気さくで朗らかな性格らしい。きっとそんな身内がいれば生真面目なこの刀も肩の力を抜く事が出来ると思う。
薙刀の岩融さんも来てくれれば今剣ちゃんが喜ぶかと思うけど、薙刀は奇跡でもおきない限り中々お目にかかれないだろう。演練でも岩融さんを見る事は滅多にない。


「……私が試してみてもよろしいでしょうか?」

『鍛刀ですか?いいですよ』


中々こちらには関わろうとしない太郎さんが鍛刀をやってみたいと言うなんて珍しい。
そういえば、お母さんが「普段、大人しい子がやる気を出してるうちは何でもやらせなさい」って言ってたなぁ。今は生きているかどうかも分からないお母様、貴方の教えはこちらでも役立っています。


「では、これでお願いします」


妖精さんが資材を太郎さんから受け取ると、それを溶解炉に放り込んだ。


「…おや、これは」

『さ、3時間20分⁉︎』


まさしく一期さんや江雪さんが鍛刀できると言われている時間!凄い、太郎さん凄い!
感極まって思わず太郎さんに抱きついた。身体を硬直させながらも突き放さないあたり、やっぱり彼は優しいと思う。


『ありがとう、太郎さん!』

「偶然です。今日は運が良かったのでしょう」

『それでも、ありがとう。
妖精さん、手伝い札を使用します』


妖精さんにも改めて敬意をはらいたい。手伝い札を渡すと妖精さんは「任せとけ」と言っているように見える。いつも可愛い妖精さん、今は貴方がとても格好良く見えます、輝いてます。

桜が舞う。舞い散る花びらの向こうに見えたのは汚れのない白だった。


「よっ。鶴丸く」

『…違った』

「え?」

「……申し訳ありません、主」

『いえ、太郎さんは何も悪くありません。誰も悪くないんです。妖精さんもありがとうございます』

「驚いた!こんな出迎えは初めてだ」


鶴丸さん、貴方も話には聞いた事がある名刀だけど…だけどっ!今度こそ短刀達がお兄さんと戯れる姿が見れると思ったのに……はっ、と自分の失態に気付くも既に遅し。初対面でなんて事をしてしまったのか。
不機嫌になっているだろうかと鶴丸さんを見れば寧ろ笑顔だ。懐が深い神と見た。


『…すみません、取り乱しました。私がこの本丸の審神者、ななしと申します。これから宜しくお願い致します。そしてこちらが私の近侍を務めて頂いている太郎太刀さんです』

「宜しくお願い致します」

「ああ、改めて鶴丸国永だ。こちらこそ宜しく頼むぜ」



(鶴丸国永、我が本丸にいらっしゃいました!) 鶴丸さん鍛刀記念小説。

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