詰め合わせ

□タイムスリップ戦国!
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「何処だよ、ここ」


家にいたはずなのに何故屋外にいるのか。曇天の空を眺めて曇家次男は確然とした声を漏らした。

事の始まりは恐らく雷だと思われる。
今朝から近江は豪雨に見舞われ、そら高々に雷神が暴れまわっていた。そんな中、嬉々として外に出ようとする馬鹿が一人。曇家長男、曇天火である。宙太郎は雷が鳴っていたので流石に家で大人しくしていた。
必死に天火を引き止める人物は曇家長女、曇ななしだ。女が男の力に敵うはずもなく、引き止めは難航。そこに空丸と宙太郎も天火にしがみつき、ななしに加勢したところに雷が……落ちた。


「落ちた……雷が…俺達に……姉貴と宙太郎は!⁉︎」

『あっ、よかった!空丸、無事でしたか!』

「姉貴‼︎俺はなんともないけど、宙太郎は?」

『私もさっき目が覚めたんですが……恐らく宙太郎も此処に来ていますよ』


ほら、とななしが指差す先には地面の泥濘に出来た小さな足跡と大きな足跡。
足跡は町へと続いていた。


「行こう、姉貴。宙太郎が心配だ」

『ええ。あと天火が何かをやらかさないかも心配ですしね』


町の様子は随分違っていた。住まう人も知らない人ばかり。


「何処だよ、ここ」


再度、冒頭と同じ台詞を漏らしても仕方がないと思う。
近江でありながら近江でない。本当に此処は近江かと疑うが、琵琶湖の見え方がほぼ一致するあたり己らの住んでいた近江で間違いはないだろう。


「あんたら見ない顔だね。もしかして、あの子らの仲間かね」


おばさんの指差す先には忘れたくても忘れられないカニ頭とそれの周りをピョンピョン飛び回る少年がいた。
空丸は目を光らせると素早くその二人の側に行き、迷う事なく拳をカニ頭へと落とした。


「何で一人で先々行くんだ、クソ兄貴!」

「いったい!仕方ねぇだろ、暇だったんだから。お前にはななしがいるから大丈夫かと思って」

「それでも普通待っとくだろ!普通は!」

「空丸…そんなに怒ってると禿げるぞ」

「禿げねえよ!」

『天火…私からも拳骨をくらうか、素直に謝るか、どちらか選ばせてあげましょう』

「ごめんなさい!」


我が身には変えられぬらしい。素晴らしいほど素早いお辞儀だった。


「ななし姉、空兄。天兄はじょーほーしゅーしゅーをしてたんス!だからそんなに怒らないであげてほしいっス」

『成る程。…で、わかった事は?』

「あー、落ち着いて聞けよ?
此処、織田信長ってやつが生きてる時代らしい」

「…いやいや、織田信長って偉人だろ」

『……おばさん、曇神社ってこの辺にありますか?』

「あそこだけは止めとき、呪われるで」


決定した。次の行き先は曇神社だ。
全員でおばさんに礼を云い、足は自然と神社へと向かった。
この地が不穏な空気に包まれているのもその呪いとやらが関係するのかもしれない。この時代の曇は村人から良くは思われていないらしい。


「たのもー」

「誰かいませんかー」

「ちょっとこの辺について聞きたいことがっぁアアァアアッ‼︎?」

『天火⁉︎』


神社を訪ねて早々に天火が落とし穴に落ちた。ななしは辺りを観察すると少々驚く。

この神社、罠だらけだ。


「姉貴…」

「天兄、大丈夫っスかぁああっ⁉︎」

『「宙太郎‼︎」』


次は穴を覗き込んでいた宙太郎が天火と同じ穴に落ちた。飛んできた石に背中を押されて。
不幸中の幸いか、先に天火が入ってくれていたおかげで宙太郎は無事だろう。天火がクッションになるからだ。


『間違いなく見張られていますね』

「俺達を捕まえてどうするつもりだ!」


返事はない。
代わりに別の罠が作動した。


「どうする、姉貴」

『大人しくしていただきましょう』


全方面、木の上に向かって苦無を投げると何処かから叫び声がした。ガサガサと音が聞こえるあたり木の上から降りたらしい。その方向に向かって空丸は駆け出し、刀を振り下ろす。
ガッとその刀を何かで受け止める音もする。


「ぐっ」


呻き声を発して転がってきたのは空丸で、木陰から姿を現したのは曇に引き継がれる特徴的な顔をした男女だった。


「その刀、曇のもの」

「お前達、何者だ」


大人びた雰囲気の男女はこちらを睨みつけるように見る。手にはななしが投げた苦無が握られていた。凶器を投げられたせいか、二人の心は穏やかではないらしい。


「こんなもの投げやがって、もう少しで当るとこだったぜ」

「ほんと。人の家で何してくれるのよ」

「てめえらこそ、うちの家族に何してくれてんだ」

「「え」」


鬼のような気迫を纏いながら振り上げられた手とカニ頭。それが男女の最後に見たものだ。

暗転
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