ラクサス

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「妖精の尻尾……」


誇らしげに掲げられたその文字を呟く様に読み上げると、鎧の女は口許を引き締めて中へと歩いていった。





騒がしいギルドの中を女が通ると、見慣れない顔に魔導士達の興味が向けられる。

腰に下げた長い剣と鎧が不釣り合いなほど柔和な女らしい顔に、不思議そうに動きを目で追う者もいた。

それを気にする様子もなく女は奥のカウンターで足を止め、丁度そこにいたミラジェーンに声をかける。


「会いたい人がいるんですけど、いいですか?」


お客であると分かったミラジェーンは、にっこりと笑って答えた。


「ええ、勿論。その人の名前は?」

「……ラクサス・ドレアーさんです」


一瞬ミラジェーンは戸惑った顔をしたが、すぐに了承して二階にいるラクサスを呼びに行った。

カウンターに座って待つ女に、一部始終を見ていたナツがよってきた。


「ラクサスに会うのか?」

「はい、まぁ」

「へぇ……お前、魔力のにおいがしねぇな」


くんくんと鼻をひくつかせながらにおいをかぐナツに困ったように笑いながら女が答える。


「そりゃまぁ、私は魔導士じゃありませんから」

「ふうん。それで、ラクサスに何の用なんだ?」

「手合わせをお願いしに来ました」

「……はあぁ!?」


突然ナツが大きな声を出すので、周りの者たちの目線がそこに集中した。


「手合わせって勝負するんだろ!?」

「はい」

「ラクサスに?魔導士じゃねぇのに!?」

「はい」


そう言われることはあらかじめ予想していたといわんばかりの顔で平然と答える女に驚くナツ。


「やめとけよ。魔法使えねぇのに相手がラクサスじゃ半殺しにされっぞ」

「大丈夫です」

「いや大丈夫ってお前……」


無理だろ、とナツが続けようとしたとき、ちょうど呼ばれたラクサスがやってきた。


「俺に会いたいっつったのは、アンタか?」

「はい」


立ち上がる女の顔を見て、ラクサスが眉をひそめる。


「……悪いが、あんたと知り合いになった覚えはねぇんだが」

「知り合いでなくとも知ってますよ。ラクサス・ドレアーと言えばこの辺では有名ですから」

「そりゃどうも」


まっすぐラクサスを見上げ、柔和な笑顔のまま、女が本題を切り出した。


「私がここにうかがったのは、あなたに手合わせを申し込むためです。ラクサスさん」


なぜかそばで様子を見ていたナツが一番、「うわぁぁ言っちゃった」とでもいうような驚愕の表情をしていた。

女の言葉を聞いたラクサスが、眉をくいとあげて腕を組む。


「手合わせって……アンタ魔導士じゃねぇだろ」

「はい。剣士です」


平然と答える女に、苦虫を噛み締めた様な顔をしたラクサス。


「剣士なら剣士と戦えばいいんじゃねぇのか」

「いえ。あなたと手合わせさせてください」

「そう言われてもよ……」

「良いではないかラクサス」


渋るラクサスに、突然第三者の声がかかる。

エルザだ。


「魔法が使えないから弱いと言うわけでもないだろう。それに」


言葉を切って女を見る。


「立ち居振舞いだけでもわかる。この人は、かなりの実力者だぞ」


エルザのお墨付きを得て、ようやくラクサスが首を縦にふった。


「分かったよ戦ってやる。……ただし、アンタから言い出したんだ、ケガしても知らねぇぞ」

「ありがとうございます」






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