ラクサス
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この街に来てから既に1週間が経過しようとしていたが、オーレリアにはまだやり残したことがあった。
それは、実家に行くことだ。
マグノリアにある実家には、10歳で家を出て以来11年の間一度も帰っていない。
子供時代のオーレリアは剣の修行をすることを反対され、半ば無理矢理家を出ていたのだ。
そういうこともあり、近くにすんでいるにも関わらずオーレリアはなかなか実家へと行けないでいた。
(……いい加減、顔を出さなきゃなぁ……)
とっくに勘当されてるかもしれないけど。
などと考えながら、ピィィィとけたたましい音を上げるヤカンの火を止めた。
「……ふぅ」
そして昼過ぎ、オーレリアは実家の門の前に立っていた。
オーレリアの父親はある会社の重役を勤めているため、割と大きな家を構えている。
やがてはオーレリアも、しかるべき家柄へと嫁ぐのだと両親は思っていたのだろう。
それがこんなんになるんだもんな。そりゃ反対されるよ、と自らの可愛いげの欠片もない鎧姿を見下ろす。
そして決意したように息を吸うと、オーレリアはインターホンを鳴らした。
「はーい」
家の奥から返事が聞こえ、直ぐに扉が開く。
11年前より随分と老けてしまったが、確かに母の顔だった。
「えっ……と」
自分の顔を凝視したまま固まってしまった母に、どうしたものかと考える。
もう11年経ってかなり変わったし、オーレリアですと言うべきだろうか。それとも、無難に久しぶり?私のこと覚えてなかったらどうしよう。
頭の中で様々な言葉が飛び交って詰まってしまったオーレリアを見ながら、母がポロリと零れるように呟いた。
「………………オーレリア?」
「う、あ、はい。ただいま帰り……」
「ああああなたぁ!大変!」
ました、を言う前に母が家の奥に向かって叫ぶ。
何事だと慌てて駆け付けた父も、オーレリアを見ると足を止めた。
「オーレリア……!」
「……はい。久しぶりです、お父さ」
「このバカ娘が!」
またしても最後まで言う前に遮られる。
しかし怒鳴った父の顔は、泣くのを耐えるようにぐしゃぐしゃで、母などは既に号泣している。
自分を優しく抱きしめる両親に、オーレリアは安堵したのだった。
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