ラクサス

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魔導士もそうでない人も、大勢が出入りする妖精の尻尾の門を、ある日見慣れない格好の男がくぐった。

マントを羽織り、目深くバンダナを被るその男の腰には、長い剣がぶら下がっている。

ギルドの中へ入ると男は一度立ち止まり周りを見回すと、手近な魔導士に声をかけた。


「なぁ、ここにオーレリアっていう剣士はいるか?」

「……誰だアンタ」


たまたま通りかかったところを声をかけられたラクサスは、
初めて見る男の顔と見慣れない格好に眉を顰めながらも足を止める。


「俺は修行中の剣士でエリオスっていうんだ。
あいつとは知り合いで、ここにいるって聞いたから会いに来たんだけど」


人懐っこい笑みを浮かべるエリオスに、ラクサスは思わずナツを連想した。


「たしかにあいつはよくいるが、今日はまだ見てねェぞ」

「そうか……」

「オーレリアは隣町の『一つ目巨人の盾』っつうギルドにいるからそこに行けばもしかしたら」

「エリオス……?」


不意に、エリオスの肩越しから声がかかった。

渦中の人、オーレリアである。

エリオスは勢いよく振り返るなり、「オーレリア!!」と叫んだ。


「え、うわぁ。やっぱりエリオスだ。久しぶり」

「反応うっすいなおい。3年ぶりだぞ?もうちょっと感動しろよ」

「ご、ごめんね」


再会するなりオーレリアに詰め寄るエリオスにのけぞる。

なんとかエリオスをなだめたところで、余裕のできたオーレリアは
エリオスの向こう側に立ったままだったラクサスに気づいた。


「あれ?エリオス、ラクサスさんと話してたの?」

「いや、お前がどこにいるのかたまたま聞かれただけだ」


「なるほど。……エリオス?」


ラクサスの言葉にうなづいたオーレリアがエリオスの異変に気づき、疑問符を浮かべる。

エリオスは、さっきまでの愛想のいい態度とは打って変わっていぶかしげな顔でラクサスを見上げていた。


「……へぇー、あんたがラクサスだったのか」

「そうだがなんだ?」

「うわさで聞いたよ。アンタ、こいつと立ち合いして決着つかなかったんだってな」


こいつ、と言いながら指を指されたオーレリアが慌てる。


「ちょっとエリオス態度が悪いよ」

「いーから。ふぅん……こいつがねェ」


なにか言いたげなエリオスの態度に、もともと気長な方ではないラクサスは少し苛立った。


「なんか言いたいことがあんのかよ」

「……どーも納得いかないな。オーレリアは本当にアンタと引き分けだったのか?」

「引き分けというか、しばらく戦っていたらこいつから立ち合いを中断したんだがな」

「はぁ?なんじゃそりゃ。つーか戦ったって、オーレリアが剣抜いたってことか?」


立ち合いのはずなのに剣を抜く抜かないだのと、意味の分からないことを言うエリオス。

オーレリアは何かを察したのか、先ほどよりも少し強めにエリオスを止めようとする。


「エリオス、変なことは言わないで」

「変じゃないだろうが。だってよ、アンタ、こいつの通り名知ってるか?」

「エリオス!」

「無剣気制の士。
つまり、こいつは剣の技をさらに超えた、気迫で相手を圧倒する剣士だぞ。

それが普通に剣を抜いたって……。おいオーレリア、お前、本気で戦ったのか?」






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