ラクサス

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マグノリア某所。

木がうっそうと繁る森の奥では、凄まじい音を出しながら戦いが繰り広げられていた。


「ぼぉぉぉぉぁぁぁ!」


人ならざる咆哮を発する大木にも似た見た目の怪物。

そして怪物にひとり対峙するのは、剣を握るオーレリアだった。

しなる腕を必要最小限の動きでかわすと、腕の下の付け根、わき辺りに剣を突き刺す。

滑らかに腕を動かすために、体の構造上比較的柔らかい部位だ。

そこから一気に斬り上げれば、怪物の左腕は易々と両断された。

呻き声をあげてさらに暴れる怪物の動きを避けながら、体をしならせて飛び上がる。

怪物の眼球にオーレリアの剣が突き刺された。

怪物に振り落とす隙を与える間もなく眼球から一気に斬り下げ、胴体を両断する。

己を殺そうとするオーレリアを捕らえようと怪物の残りの腕が襲いかかった。

しかし、オーレリアの腕を多少抉るに終わり、命尽きた怪物の腕は、力なく地に落ちただけだった。

動かなくなった怪物から剣を引き抜き、オーレリアは嘆息する。

オーレリアの仕事は、ひとまず終わった。





「いっ……たぁ」

「我慢しなさい。まったく。またこんな荒い応急処置しかしないで」

「……すいません」


オーレリアがよく世話になる医者は、オーレリアの腕の傷を見てため息をつく。


「これ以上傷を増やしてどうするんだい。君だって一応女だろう?」

「いまさら、女がどうこうなんて気にしていませんよ」


苦笑いしながら包帯が巻かれていく自らの腕を見る。

今回傷を負った左腕だけでも、無数の傷跡が残っていた。

その中でもとくに異様な痕が、オーレリアの二の腕にある。

楕円状のその痕は皮膚が茶色く変色しており、壊死していた。

医師はその痕を見つめ、目を細める。


「…………今回の傷は、魔水晶痕に近い。多少治りが遅くなるだろう」


オーレリアの白い肌と対称的なその痕を撫でる。

壊死しているので、オーレリアには触られた感覚が伝わっていない。


「強さとは、ここまでして求めるものなのかい」


その声には、疑問と、憐れみがこもっていた。


「自分を壊してまで、欲しいものかい、それは」

「……私は、」


オーレリアが口を開く。

その顔は穏やかだった。


「追い付きたい人が、いるんです。その人に勝つことが、私の生きる意味なんです。だから」


オーレリアが医師の顔を見る。


「生きる意味のためなら、私は何でも捧げます。私には、それしかないから」


そう言うとオーレリアは袖をもどし、鎧を身に付ける。


「先生、また近々お世話になると思います」

「……またつけるのか、魔水晶を」

「はい。もっと強くなりたいんです」

「……患者が望むのならそれは自由だ。だが警告はしておく」


医師の目がオーレリアをまっすぐ見る。

オーレリアを非難するような色が少しだけ見え隠れした。


「君は魔導士じゃない、ただの人間だ。……限界は近い」

「…………覚えておきます」


オーレリアは最後ににこりと笑って医師に背を向けた。

医師の目は黙ってオーレリアの背を見る。

鎧越しに、左腕よりも深く、広く残るあの恐ろしい痕と、肌に埋め込まれたぬらりと光る魔水晶が見えるような気がした。







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