いのち 内容
□ひとつ
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太陽の日差しが暖かいある日。
妖精の尻尾の魔導士であるナツ・ドラグニルは、意気揚々とした表情である家を見上げていた。
まだ幼い彼からしてみれば、この小さな家も大きく感じる。
飛び上がるようにして背中に背負った大きな荷物を担ぎ直し、すこし背伸び気味になって扉の戸を叩いた。
すぐに部屋の中から返事が聞こえ、パタパタと言う足音のあとすぐに扉が開かれた。
「はいはいどちら様……」
扉の中から出てきたのは、見慣れない服装をした黒髪の女だった。
女はナツを見下ろすと、「どちら様で?」とまた聞いた。
ナツは誇らしげな顔で右肩の紋章を見せて「妖精の尻尾のナツだ!」と答える。
「お前がイミヅキ・ヨタカだろ?」
「まさか、私のクエストを受諾したのが君なのか……?」
「そうだけど」
それがどうかしたのか、という顔でナツが認めると、ヨタカと呼ばれた女は頭を抱え込んだ。
「まさかこんな子供だとは……」という小さなつぶやき声はしっかりとナツの耳に届いたようで、むっとした顔で反論する。
「子ども扱いすんな!俺は強ェぞ」
子供特有の高い声で騒ぎ立てるナツに、ヨタカは「はいはい」と答え、とりあえず家の中に招いたのだった。
木でできた机の上に湯呑が置かれる。
ナツはそれをじっと見つめながら、「変な家だな」と言った。
「靴を脱がなきゃいけないし椅子はないし、コップに取っ手がついてないなんて、俺初めて見たぞ」
「まあここら辺の文化とはかなり違うだろうな」
自分の分の湯呑と茶菓子を置き、自らも座ったヨタカにナツが「そんなことより」と身を乗り出す。
まだ体が小さいため、すでに立ち上がっていた。
「クエストの内容を教えてくれよ。依頼書には書いてなかっただろ!?」
「いや……そのことなんだが、君にお願いすることはできないんだ」
目をキラキラさせるナツとは対照的に、苦々しい顔でそう言ったヨタカ。
「はああああ!?なんでだよ!」
「君みたいな子供に頼める内容じゃないんだ。
依頼金は渡すから、申し訳ないがこのクエストのことは忘れてくれないか」
机の上に載らんばかりの勢いで叫ぶナツに、ヨタカは理性的に語りかける。
「子供じゃねェ!それに、金だけもらって帰るなんて妖精の尻尾の魔導士の名折れだ!ぜっっったいに帰らねぇぞ」
ついに机の上に乗っかりあぐらをかいて不機嫌そうに鼻息を荒くするナツに、またヨタカが頭を抱える。
「やっかいなのが来てしまった」という声が聞こえるようだった。
「頼むよナツくん。ギルドに帰って別の大人の魔導士を連れてきてくれてもいいんだ」
「いやだね。俺が!お前のクエストをクリアするんだ」
なんどもなんども説得を試みるが、
ヨタカが説得しようとすればするほど頑固になってゆくナツに、しばらくしてついにヨタカが折れた。
「…………しょうがない。君が諦めるまではここにいることを許可しよう」
「ぜったい諦めねェし!」
ふん、とひときわ大きく鼻息を荒げ、ナツは腕を組んだのだった。
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