いのち 内容

□みっつ
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ナツがヨタカの家の戸を開ける。

静かに居間へと向かうと、ヨタカが座って苦笑いをしながらナツを見た。




「なんだ、来たのか」

「ヨタカの事、聞かせてくれよ」




真面目な表情を崩さず、ヨタカの正面に座るナツ。

ヨタカはナツがちゃんと自分に向き合ったのを確認して、ゆっくりと語り出した。




「まず最初に、私がこの国の出身ではないことは見てわかるな?」

「確かに、なんか違う顔つきしてるな」

「そう。私は遥か東の果てにある小さな国の出身だ。

フィオーレ王国を湯呑だとすると、私の祖国はゴマ粒ほどに小さい。

本当に、国と言うよりも都市のように小さなところだった。

しかし歴史だけは長くてな、周りの強国の後に隠れてのらりくらりと生き延びてきたのだ。

私はその国の中でも古い家系を持つ、忌月家の一人娘として生を受けた。

その忌月家で代々伝えられてきたのが、『鬼道』だ」

「ヨタカが使う魔法?」

「その通り。この魔法は危険な魔法だ。まずこの力を得る方法が常軌を逸している」

「……………」

「東方にのみ住む凶悪な魔物、鬼というものをな、喰らうんだよ」

「……喰らう?」

「喰らって、体の中に封じるんだ。しかしただ喰らえばいいというものではない。
そもそも喰らう前に鬼に殺される可能性がある上に、
腹の中で生き続ける鬼を制御するために、並々ならない魔力と体力、そして精神力が必要とされる」

「なんで、精神力が必要なんだ?」

「……鬼がな、頭の中で叫び続けるんだよ」




トントン、と頭を指でつついて言う。




「じゃあヨタカの頭の中でも、鬼が叫んでいるのか」

「ああ。強力な魔物はその声にさえ魔力を持つ。
精神力の弱いものはその鬼の叫びに負けるんだ」

「負けると、どうなるんだ?」

「鬼に体を乗っ取られ、自我を失い、鬼そのものとなる。

つまり、人でなくなるということだ」





軽い口調に隠された重い言葉に、ナツが押し黙る。





「ん?このくらいで怖がってたら続きは話せんな」

「別に怖がってねーし!」





意地になって叫び返すナツにヨタカは少し笑うと、すぐに口元を引き締める。





「だが叫びに負けようが耐えようが、どちらにしろ鬼にはなるんだがな」

「はあ?どういうことだよ」

「叫びに負ければ鬼になる日が速くなる。
だがこの鬼の力を使うことでも、人は鬼になるんだよ。
やはり腹に封じていると、その力を使うたびに体と鬼が一体化してゆく。
普通にしていれば4,50歳で鬼になるな」

「そ、それって……ヨタカも?」

「もちろんだ」





当然と言わんばかりに答えたヨタカに、ナツは目を見開いた。

それも仕方のないことだろう。

先ほどまで自分と暮らし、普通に生きていたものの末路を聞いたのだから。





「なんとかなんないのかよ!」

「ならんなぁ。もとよりそんな生ぬるい覚悟でこの魔法を身につけてはおらんよ。
別にお前が気にすることじゃない」






気にするな、と言われてあっさりと諦めるナツではない。

しかしだからといってよい方法が思いつくわけでもなく、押し黙ってしまった。

何も言わなくなったナツに、ヨタカは笑って「これで、私の魔法についての説明は終わりだ」と言った。


話しつかれた。茶でも入れようか、と立ち上がるヨタカ。

しかしナツに立ち上がる様子はない。





「待てよ」





ナツはヨタカをまっすぐ見上げた。





「まだ話、終わってないんだろ?」





ナツの目には、確信と、疑いがあった。

ヨタカはその目を見つめ、「……鋭すぎる勘も、困ったものだな」と静かに答えた。












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