2015年<リクエスト作品>

□Etching
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校内にチャイムが鳴り響く
俺は一人教室にいた

体育祭の準備期間もあり、午後の授業が空いたからだ

まだ暑いこの時期に、皆よく動いているものだと窓の外に目を落とす


丁度校庭に出てきたのはうちのクラスの生徒だった


その中でもとりわけ目がいってしまう
人混みの中でも目立っている

泉奏・・・・・・

何故か気になる存在
決して贔屓しているつもりはないけれど・・・



ハードルの準備が出来たようだ
皆がスタートラインへと集まりだす

アキラが凄いスピードで一着

次は奏だ

奏もなかなかの早さで走っている
が、最後のハードルに足をかけてしまい、豪快に地面へと体を滑らせた

俺は思わず立ち上がり、窓を開けて覗き込んだ
直ぐにアキラが駆け寄り、奏の体を起こしている
奏はアキラの肩を借り、保健室へと向かったようだ

クーラーの利いた部屋は、すっかり生暖かくなっていた
そんなことも気にせず俺は考えていた
どのくらいの傷だったんだろうか・・・


だが気付くと俺は保健室へと向かっていた
自分では気付かないほど早足で

扉の前で耳を澄ましてみる
だが、中からは何も聞こえない
不安になって扉を開けた
やはり保健室の中には誰もいなかった

窓の外ではまだ体育祭の練習が続いていて、ざわつく声が聞こえている
そのなかに赤い髪が動いていた
アキラは既に授業に戻っている
俺は急いで校庭へと向かった


ハードルを飛び越える光景の向こう側
木陰の下のベンチに銀髪が揺れている

俺は何食わぬ顔でその隣へと腰を下ろした


「・・・!先生・・・どうしたんですか?」

「いやぁ良い天気だからさ」

「・・・いつもは出てこないじゃないですか。暑いところは嫌なんじゃないですか?」

「・・・・・・お前さっき豪快にコケてただろ」

「!!・・・わざわざそれを言いに来たんですか?物好きですね」


膝や脹ら脛に貼られた大きなガーゼ
しかもなんだか雑に貼られている


「大丈夫だったか?」

「えぇ、これくらい。手も無事でしたし」


ピアノを弾く奏にとっては、指の方が大事だったんだろう
でも傷を覆うガーゼを見ると心配になってしまう
あまりにそこばかり見つめていると、奏が怪訝な顔で俺を見た


「そんなに汗だくで何処から来たんですか?」

「え?いや・・・教室からだけど・・・」

「俺がコケたって言いに来たんですか?わざわざ」


更に不機嫌な顔になっていく
いつもの奏だ


「心配になったから来たんじゃないか・・・って、奏・・・お前腕に血が付いてるぞ!」


俺は慌てて奏の腕を掴んだ
どうやら肘も擦りむいていたようだ
白衣のポケットを探ると個包装になった消毒綿が入っていた
急いでそれを破り、傷口を消毒する

消毒綿が触れると傷に滲みるのか、小さく奏の体が跳ねた
しかもうっすら涙まで浮かべている
そんな奏を見ることなんてないものだから、俺は調子にのって奏を見つめた


「もっと利く消毒してやろうか?」

「・・・・・・え?」


奏が顔を上げた瞬間

俺はその傷口へと唇を宛てた







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