2015年<リクエスト作品>

□Etching
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消毒液の匂い
舌で感じる鉄の味

奏が驚きに目を丸くする
驚いた様子だった

そりゃ驚くか・・・
掴んだ腕に力が籠るのが分かった
そういえばアイツ・・・潔癖症だったっけ?





俺はあの日の事を思い返してしまう
自分でも何であんなことをしたのか分からない
一人化学室でその事を考え出すと、仕事の手が止まってしまう

その時だった
準備室をノックする音が聞こえる


「はい、どうぞ」

「・・・・・・失礼します」


返された声に思わず顔を上げる
そこには奏が立っていた

奏の事を考えていた俺は、何故か後ろめたさで顔をまともに見れない
そんな俺の前に奏がやって来た


「先生?」

「あ、あぁ・・・どうした?」

「そこの階段で足を踏み外して手の甲を怪我したんです」

「えぇ!?」


俺は奏な言葉に思わず怪我した方の手を掴んでいた
白い手袋にうっすらと血が滲む


「おま・・・なにやってんだよ!」


手袋を取ると人差し指と中指の間が切れていた
青く色も変わっている


「消毒綿持ってるかと思いまして・・・」


奏の言葉にポケットを探るが入っておらず、辺りを見回してもない
慌てる俺に奏が口を開く


「ではこの前みたいにしてください」

「え・・・この前?」

「そうです。この前みたいに舐めてください」


この前の腕のように・・・って事か?

奏を見てもふざけているようには見えなかった
でもこの顔でわざと言っているのかもしれない


「仕方ないなぁ、奏はいつから甘えん坊さんになったんだ?」


俺は明るいトーンでそう言うと、傷を舌で舐める
小さく息を飲む音が聞こえた気がした

俺が口を離そうとすると、奏は手の甲を押し付けてきた


「まだです。もう一度・・・・・・」


俺は奏の言う通り、もう一度そこを舐めた
そして口を離すと血の付いた手袋をまた手にはめる


「・・・もう治りました」

「いや、それは早いだろ!ちゃんと保険医に見てもらえよ!」

「いいえ、大丈夫です」


そう言うと、奏は部屋から出ていってしまった
明らかに様子がおかしい

ちょうど難しい時期の子供たちではあるが、それにしてもおかしい
でも奏だって甘えたかっただけなのかもしれない

とりあえずそう言うことにしておこう


俺はそんな風に軽く考えたしまった

自分の中にあるなんとも言えない気持ち
奏のおかしな態度


俺はその事全てに目を瞑ってしまったのだ







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