コンユss
□凍えそうな夜に
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この時期の眞魔国は寒い。
特に今日なんかは雪が降っている。寒い。寒すぎる。
晩餐会の会場は暖炉で温まっているけれど、風呂場の脱衣所は身を切るように寒いと思うと、この後の風呂も憂鬱に思える。
「湯たんぽがほしい」
ふと口に出した言葉に真っ先に反応したのは、やっぱりヴォルフラムだった。
「ゆたんぽ……なんだそれは、男か!?」
「ちげーよ!」
「陛下はベッドに入ったとき寒いから、温めてくれる湯たんぽがほしいんだよね」
さすが地球留学歴のある名付け親だ。
「そうそう、あのベッドでかいし、毎晩寒くてさ」
「温めてくれるだと……やっぱりそうかユーリ、この浮気者!」
「だから誤解だって!」
ヴォルフラムやグレタと寝るときは温かいけれど、なにしろベッドが大きすぎる。
それに、最近ヴォルフラムは夜におれの部屋に来ようとしない。
おれが彼とともに城に帰ってきてからずっと。
「こちらに湯たんぽのようなものはないけれど、陛下がお望みならばすぐに似たようなものを作らせますよ。そうだな、アニシナに頼むのが早いかな」
コンラッドがそう言うと、今まで黙っていたグウェンダルが無言で身体を震わせた。隣に座っているギュンターも少しだけ小さくなっている。
「いや、遠慮しとく。犠牲の上に成り立つ王様ってやっぱ良くないと思うし」
そう言うとグウェンは露骨に安心したようにひとつ息を吐いた。ギュンターは感動のあまり汁を吹きだしている。あ、テーブルクロスに垂れた。
「でも、やっぱり寒いものは寒いんだよな」
晩餐会も終わって、地獄の脱衣所を乗り切って風呂に入った帰り道。隣を歩く名付け親に少しだけ愚痴ってみる。
「そうだな、ヴォルフラムに一緒に寝てくれるように頼むのはどうですか?」
いやいや、もうあのイビキと寝相は勘弁。
「……陛下、ヴォルフラムはあんなですけど本気で陛下のことをお慕いしているんですよ。もちろん俺も含めて臣下一同、同じ気持ちですが」
だから、頼まれれば湯たんぽにでもなんでもなりますよ。
そんなことわかってる。
こんな風に寒いって愚痴を言って、あんたと並んで廊下を歩ける時間がどれだけ幸せか。
そんなことは痛いほどわかってるんだ。
「だったらあんたが湯たんぽになってよ」
もう二度と、凍えそうな夜におれの前から姿を消さないように。
「陛下がそうおっしゃるのなら」
「……陛下って呼ぶなよ名付け親」
「すみません、つい癖で」
ユーリ。
ああ、こんな凍えそうな夜にその声が聴けることが、どれだけ幸せだろうか。
心がじわじわ温まる気がした。
本当にほしいのは湯たんぽなんかじゃないんだ。
本当にほしいのは、