コンユss
□旅立ちの歌
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別れではなく旅立ちだと、少し前に歌ったはずの合唱曲のフレーズを口ずさんだ。
離れていても友達だとか、新たなに芽吹く未来へ向けて、だとか、耳ざわりのいい言葉が並んだ曲。そこまで真面目に練習してたわけじゃないけど、おれは割と好きだった。
中学の卒業式で、女子はわんわん泣いててさ、おれも少しだけうるっときた。村田は……どうだったかな。あの時は今みたいに親しくなかったからよく覚えていない。
だけど、泣ける別れってのはいいものだ。
もう戻ってこないかも知れない男の部屋で、そいつのシャツを握りしめて、それでも泣けないおれなんかよりずっと、ずっといいものだ。
抱きしめすぎたシャツからは、もうあんたの匂いはほとんどしない。
それでもここに来てしまうのは、何て言うのかな、未練……執着?
男ってのはさ、簡単に泣けない生き物なの。親友の前でも、自称婚約者の前でも、信頼する部下の前でも。
例えここに自分しかいなくたって、泣けないもんなの。
「コンラッド」
涙を流す代わりに名前を呼んだ。
「ばか、きらいだ」
ついでに一つ嘘もついた。
「俺のそばにいないあんたなんて、きらいだ」
本当はどこにいたって、こんなに好きだ。
なぁ、この別れにはどんな意味がある?未来への一歩?明日への旅立ち?
だけど、そんな未来はいらない。
あんたがおれの名前を呼んで、泣いてもいいよって抱きしめてくれる今が欲しい。
夜が明ける。
また、あんたを嫌えないまま朝が来る。
だけど、何故かそれでもいい気がした。