コンユss
□三時のおやつの甘いもの
1ページ/1ページ
目の前の小さなケーキを睨みつけて、早くも10分がたとうとしている。
三人がけのソファーの隣に、長い足を持て余すように座っているのはおれの名付け親兼恋人。
よゆーな顔しやがって……いや、いつも笑ってるのはコンラッドの良い所でもあるんだけどさ。でもやっぱちょっとムカツク……。
なんて複雑な男心を心の中で力説したところで時間は進むばかりで、何の解決にもならない。
そもそも、どうしてこんな事になっているかというと、事の始まりは15分前。
明日から少しだけ遠くの任務につく恋人が寂しそうな顔をするので、ついつい甘やかしてしまったのだ。
「何かひとつ言うこと聞いてやるからさ、元気出せよコンラッド」
3時の休憩の時間を活用して、あわよくば「キャッチボールがしたいです」とか言ってほしいな、なんて思いながらそう言った。
「じゃあ、俺の分を食べさせてください」
なんて、こっ恥ずかしい応えが帰ってくるとも知らずに。
そもそも、そんなに遠くに行くわけでも無いのだ。明後日の朝には帰ってくるし、そこまで危険な任務ではない、と、本人が言っていた。
しかし男に二言はない!自分で言った以上は何としてもコンラッドの言うことを聞いてやろう!……けどやっぱり恥ずかしい。
そんな心の葛藤を無視するように、時計の針は非情にも休憩時間の終わりへどんどん近づいてゆくのだ。
「ユーリ、恥ずかしいならやっぱり……」
「いや、男に二言はない!やるぞ!今やるから……ちょっと待って……」
勢い良くフォークを握ったものの、やっぱり言葉は尻すぼみになってしまう。
でも、このままでは休憩時間が終わってしまう。おれの分のケーキだってまだ一口も口をつけていないし、早く済ましてしまわなければ食いっぱぐれだ。
「コ、コンラッド……!」
「はい」
「あ、あーん」
控えめに差し出したフォークの先のケーキを、コンラッドは見惚れるくらい優雅に口に運んだ。それから、すごく幸せそうに「美味しいです」と笑った。
これがあと二口も残っていると思うと、ついつい顔が熱くなる。
ケーキを食べなくても、もう甘いものはお腹いっぱいなんだけど、エーフェがせっかく作ってくれたお菓子を残すのも忍びない。
「ユーリ、ありがとうございます。少し休憩にしましょうか」
そんなおれを気遣ってか、コンラッドが優しく俺の手からフォークを取り上げる。
仕事の休憩時間に他のことの休憩をするって何だか変な気分だけど、お言葉に甘えさせてもらおう。この葛藤がしばらく続くと思うと余計に疲れそうだ。
「今度は、俺が食べさせてあげます」
はい、あーん。
という言葉とともに、コンラッドから差し出されたケーキを食べるまで、おれはまた新たな葛藤を味わうことになるのだった。