コンユss
□四月馬鹿
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「ゆーちゃん、今年から16歳の男子は四月一日にメイド服を着なければならないという法律が制定された。つまり、今日ゆーちゃんはメイド服を着なければならない。大丈夫だ、心配するな。お兄ちゃんがちゃーんと用意しておいたからな」
うわぁ、四月馬鹿ってこういうこと言うんだな……。
メイド服片手に迫ってくる勝利から逃れるべく、自分の部屋に逃げ込んだおれ、渋谷有利は、そこにあったコップの水に吸い込まれて、またまた眞魔国へスタツアすることになったのだった。
「散々な目に合ったよ……」
「それは災難でしたね」
濡れた服からいつもの学ランに着替える途中、着替えの手伝いをしていた名付け親にいきさつを説明すると、いつも通りの穏やかな笑みが返ってきた。
「勝利のやつ、ことあるごとにおれにメイド服着せようとするんだもん」
だいたい、おれにメイド服なんて着せて何が楽しいんだ。男に着せたって可愛くもなんともないだろう。あ、でも、ヴォルフなら似合いそうだな、フリフリメイド服。
「それだけユーリのことが可愛いってことですよ。それにしても、地球には変わった行事がありますね。エイプリルフール……でしたっけ?」
「そうそう、エイプリルフール。でもエイプリルフールは人を不幸にするような嘘はついちゃダメなんだ。笑って許せるような嘘じゃなきゃ」
「なるほど。それは楽しそうですね。陛下は誰にも嘘つかないんですか?」
「陛下って呼ぶなよ、名付け親。うーん……そうだなぁ。ヴォルフもグウェンもギュンターも冗談通じなさそうだしな……」
ヴォルフに至っては、エイプリルフールの名前を出しただけで「何だそれは、男か?」って怒り出しそうだ。
「すみません、ユーリ。……それなら俺についてみてください、嘘」
と、コンラッドは悪戯っぽく笑った。
「えー、嘘つけって言われるとつきにくいなぁ……じゃあさ、コンラッドが忘れた頃につくよ!嘘!」
「楽しみにしてます」
「そうだ、コンラッド、これから野球場見に行こうぜ!眞魔国は今日休日だろ?」
「ええ。熱心なチームメンバーが今日も練習してると思いますよ」
コンラッドは俺の着ていた服を丁寧にかごに入れて、メイドに渡してから言った。
「でも、俺はこれから予定があるので夕方でも構いませんか?」
そうだよな、コンラッドだって休日だったんだ。予定くらいあるよな……なんだか引き止めて悪いことしちゃったかな。
「もちろん。ていうか何?用事って女の人?」
「ちがいますよ。でも、そうだと言ったらどうしますか?」
おれのいじわるな質問には、いじわるに返してくる。 最近コンラッドがこうして気を許してくれていると思うと、なんとなく嬉しい。
コンラッドの用事が女の人だったら……おれは嫌だと思う。そりゃコンラッドはモテるし、そろそろ結婚してもいい年だってチェリ様も言ってたけど……けど、やっぱり嫌だ。
なんだか胸の辺りがモヤモヤしてきた。
そしておれは、そのモヤモヤの正体もちゃんと知っていた。
「別にー。モテる奴は違うなーって思うだけ。用事あるんだろ?早く行ったほうが良いんじゃない?」
「ユーリ、すみません。拗ねないでください」
コンラッドが申し訳なさそうにこっちを見てくる。ああ、また困らせてしまった。でも、今回はあんたが悪いんだからな。
「別に拗ねてないし。あ、それから……」
困らせついでに、エイプリルフールの特権を使うことにした。
「コンラッド、好きだよ」
どうせ嘘になるんだ。言ってしまえ。顔は熱いけれど、それはまあ、気にするな。
するとコンラッドは少し眉を下げて言った。
「困ったな。それが嘘だと言われたら、俺はとても悲しい」
ああ、この男は本当にズルイ。おれの気持ちなんて、きっととっくにお見通しなんだ。
「で、嘘なんですか?」
耳元に落とされた声に体がしびれる。
もう4月だから。春だから、頭がぼーっとするだけだ。
だからおれがうっかり本当のことを言うのも、全て4月のせい。
「嘘じゃない」
そう言った唇を、甘い感触がふさいだ。