コンユss
□夢の中まで想うほど
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今日もまた帰って来なかった。
ベッドに入って、あんたのことを思い出す。おれを守ると言ったくせに、あんたはもうずっと俺のそばに居ない。
こんなことなら、気持ちを伝えるんじゃなかった。
好きだと言ったら、いつも通り微笑んで「俺にあなたはもったいない」と言った。
もったいなくなんかない。おれはあんたが思ってるほど大層な存在じゃない。
離れてるからって、忠誠心を疑ったりはしない。信じてる。だっておれの好きになった人だ。
でもさ、一番シンプルな寂しいって感情が今更出てくるなんてひどいよな。
会えたってあんたはおれを抱きしめてくれない。忠誠と信頼以上の意味でのキスはよこさない。
それでも会いたい。
いつかみたいに、眠れないおれの部屋に来て、手をとって子守唄を歌って欲しい。
なんだか目が冴えてきた。今日はいよいよ眠れそうにない。
いつもイビキのうるさい婚約者は、今日に限って部屋には来なかった。いや、ヴォルフが居ないからこんなこと考えちゃうのかな。
「コンラッド……」
誰も聞いてないのに……誰も聞いてないから名前を呼んだ。口に出したら余計に切なくなったけど。でも泣かない。あんたのせいで泣いたりしない。それがおれの一番の強がりで、あんたに向ける一番の愛情だから。
エンギワルドリが飛んでゆく。やめろよ縁起悪いなぁ。
明日はグウェンと仕事して、ギュンターと勉強してさ、ヴォルフの絵のモデルになって、グレタとエーフェとお菓子作って、そのお菓子で村田とお茶会すんの。
なんにも嫌なことなんてない、いつも通りの楽しい1日。
だから、そんな日にひょっこり、いつも通り調子よく笑って帰ってきてくれたらいいのに。
おれのお姫様の手作りクッキーだってわけてやる。ヴォルフの小言からだって庇ってやる。グウェンから頼まれる仕事だって手伝ってやる。
もう好きなんて言わないでおいてやる。
だからさ、
「早く帰ってこいよ……」
涙が出たけど、あんたのせいで泣くんじゃない。あんたのために泣くんだ。
あんたが戻ってきた日に、笑っておかえりって言えるように泣くんだ。
悔しかったらここまで来て止めてみろ、ばーか。
空が白み始めた頃に、やっと眠りについた。明日はグウェンと仕事して、ギュンターと勉強して……そうだ、その前にロードワークだ!あんたも来るだろ?
その答えを聞く前に目を覚ました。なんにも嫌なことなんてない、いつも通りの楽しい1日が始まった。
「俺にあなたはもったいない」
ああ、あなたにそんな悲しい顔をさせてしまった。
熱のこもった目で、真っ直ぐ俺を見る。その唇から好きだという言葉が発せられたのはついさっきの出来事だ。
俺もあなたを愛していますと言えたら、どれだけ良かっただろう。ユーリは俺にとって名づけ子で、敬愛する主で、命よりも大切な人だ。愛してこそいるけれど、それこそ意味が違う。
それに、熱烈な愛の告白を受けてしまった。
誰の心も掴むような、射抜くようなその目で見つめられたら、嘘なんて付けない。
どうかあなたが一番幸せになれる相手と、いつか結ばれますように。
そう願って、俺はその場を立ち去った。
気付いたら血盟城の、あなたの部屋の前に立っていた。
おかしいな、さっきまで俺はユーリに愛の告白を受けていたはずなんだけど……そうか、これは夢なのか。
ユーリに告白された時の夢を見るなんて、嬉しいんだけど複雑な気分だ。あなたの傷ついた顔をまた見てしまった。
どうか、扉の向こうのあなたは笑っていますように。
「明日はグウェンと仕事して、ギュンターと勉強して……そうだ、その前にロードワークだ!あんたも来るだろ?」
笑顔の裏に、切なさと不安を忍ばせてあなたはそう言った。本当に、ユーリはすぐに考えていることが顔に出るんだから。
「ええ、もちろんです」
そう言ったら今度こそあなたは、花が咲いたように笑った。
目を覚ますとそこは眞魔国ではない。
あなたに会えない。いや、会うべきではないと決めたのは俺なのに。
あなたの笑顔がもう一度見たかった。
夢ではなくて、俺の目の前で笑って欲しい。今更、あなたの側を離れたらそんなことも出来なくなるんだと気づいて、そして、夢に見るほどあなたに会いたいのだと気付いた。
太陽の笑顔が頭から離れない。
少年のように胸を焦がす、と言うのだろうか。そういえば少年のころも胸を焦がすような恋はしなかったな。
「はいはい。いいよなーモテるやつは、よっ、好色一代男!」
やめてくださいよ。モテるなんて、そんなんじゃありません。そんな話誰から聞いたんです?
「グリ江ちゃんが教えてくれた!昔はずいぶん遊んでたって」
そんなことありせん。俺は一途なんですよ、何事においてもね。あなたに対する態度を見ればわかるでしょ?
「それじゃあ、俺のこと好きになってくれる?」
目を覚ました。
いつの間にか二度寝してしまったみたいだ。
「なんてこった……」
眠気眼をこするよりも先に、動かした左手を口元に当てる。
なんてこった。
夢の中とはいえ、ユーリにあんなことを言わせてしまった。あんな悲しい顔をさせてしまった。
いや、それよりも、最後に俺が言った言葉の方が問題だ。
『もちろん。愛しています、ユーリ』
愛してしまった。名づけ子を、主を、命よりも大切な人を。いや、愛していた。気づくのが遅くてあなたを傷つけてしまったけれど、ずっと前から。
でも、会えない。
次にあなたに会えるのがいつかも分からない。
それまであなたは苦しんでいるのだろうか。それとも、もう俺のことなんて忘れてしまっただろうか。
「ユーリ……」
いっそ忘れて欲しい。そう胸を張って言えるようになるまで、もう少し時間がかかりそうだった。
そうしてさして楽しくもない、いつも通りになってしまった1日が始まった。