コンユss
□ポケットに透明なぬくもり
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だって、振り向いてくれたことが奇跡だった。
この部屋にはあなたの想い出が多すぎる。
ベランダから見回した自分の部屋には、あなたと買ったものが多すぎる。
だけど、捨てろと言われても捨てられない。あなたへの気持ちを上手に捨てるまでは。
随分と年が離れているから、いつか俺が彼の足枷になることはわかっていた。近所に生まれた、小さな男の子。俺がユーリと名付けた子供。
それがいつの間にか可愛らしく育って、一人の男性になった時、俺はもう気持を抑えきれないと知っていた。
だけど近所のかわいい子を、所謂ソッチの道に引きずり込むことはできないし、何より、いつか自分が彼の足枷になるであろうことが悲しかった。
「俺、あんたのことが好きなんだ」
何でも無いように言ってみせた。俺がずっと秘めていた気持を。
そしたらもう、いよいよ抑えがきかなくなって、なし崩しに好きだと伝えてしまった。
それからは毎日がユーリを中心に回っていた。想わせてもらえる。それだけのことがこんなにも嬉しかった。
毎日が楽しくて不安で悲しくて。
そして、さよならとやっぱり言われた。
だめだ、もう味を知ってしまった。
もう戻れないと思った。
ユーリが俺を好きじゃなくても、俺はユーリを好きでいるしかないと思った。
部屋の色も、ベランダからの景色も、みんな色あせて見えた。
色あせたんじゃない、もとからこうだった。
あなたのいる景色はあまりに綺麗で、だから忘れていたんだ。
世界はこんな色をしていた。
いつだったか、お守り代わりに渡したペンダントがポケットから落ちた。
あなたは最後に、返すと、それだけ言って俺にペンダントを渡した。
守らせてもくれないんですね。
卑屈に考えて、ポケットにしまった。
あなたの温もりが残っている。
それだけが支えだった。
「ユーリ」
自分でつけた名前を呼ぶ。
ドイツ語で7月はユーリ。夏の暑さに負けないように、強く元気な子に育つようにユーリ。
いつだったか、同じように彼を呼んだことがある気がする。
だけど昔すぎて覚えていない。
覚えていないんだ、ユーリ。