コンユss

□ポケットに透明なぬくもり
1ページ/1ページ


だって、振り向いてくれたことが奇跡だった。



この部屋にはあなたの想い出が多すぎる。

ベランダから見回した自分の部屋には、あなたと買ったものが多すぎる。

だけど、捨てろと言われても捨てられない。あなたへの気持ちを上手に捨てるまでは。



随分と年が離れているから、いつか俺が彼の足枷になることはわかっていた。近所に生まれた、小さな男の子。俺がユーリと名付けた子供。

それがいつの間にか可愛らしく育って、一人の男性になった時、俺はもう気持を抑えきれないと知っていた。

だけど近所のかわいい子を、所謂ソッチの道に引きずり込むことはできないし、何より、いつか自分が彼の足枷になるであろうことが悲しかった。

「俺、あんたのことが好きなんだ」

何でも無いように言ってみせた。俺がずっと秘めていた気持を。

そしたらもう、いよいよ抑えがきかなくなって、なし崩しに好きだと伝えてしまった。

それからは毎日がユーリを中心に回っていた。想わせてもらえる。それだけのことがこんなにも嬉しかった。

毎日が楽しくて不安で悲しくて。

そして、さよならとやっぱり言われた。



だめだ、もう味を知ってしまった。

もう戻れないと思った。

ユーリが俺を好きじゃなくても、俺はユーリを好きでいるしかないと思った。

部屋の色も、ベランダからの景色も、みんな色あせて見えた。

色あせたんじゃない、もとからこうだった。

あなたのいる景色はあまりに綺麗で、だから忘れていたんだ。

世界はこんな色をしていた。



いつだったか、お守り代わりに渡したペンダントがポケットから落ちた。

あなたは最後に、返すと、それだけ言って俺にペンダントを渡した。

守らせてもくれないんですね。

卑屈に考えて、ポケットにしまった。

あなたの温もりが残っている。

それだけが支えだった。

「ユーリ」

自分でつけた名前を呼ぶ。

ドイツ語で7月はユーリ。夏の暑さに負けないように、強く元気な子に育つようにユーリ。

いつだったか、同じように彼を呼んだことがある気がする。

だけど昔すぎて覚えていない。



覚えていないんだ、ユーリ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ