コンユss

□まぶしいくらい君が好き
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赤い悪魔が俺に魔法をかけたのは、今日の朝のことだった。



「人間と魔族の架け橋となる魔導装置を考案したので、貴方たちをもにたぁにして差し上げましょう!」

グウェンの執務室にノックもなく入ってきたフォンカーベルニコフ卿は、それだけ言うと俺とグウェンの首根っこをしっかり掴んで歩き出した。
参ったなぁ、逃げるのは難しそうだ。

そもそも、彼女に敵う者などこの国にはいない。

なんたって彼女は強く美しい赤い悪魔だ。 たまに少しだけ迷惑だけど。



「失敗です!」

グウェンダルが涙目で腰を抜かしている。俺はというと、特に何もされていない。最初に錠剤をひと粒飲まされただけだ。

アニシナが今回開発した魔導装置は、人間が魔力を使えるようになるという画期的なものだった。魔力といってもあまり強いものではないし、近くに魔力を提供してくれる魔族がいないと成り立たない。

人間と魔族が手を取り合っていける世の中だからこそできたような発明だ。

まぁ、血盟城に生粋の人間はグレタ姫くらいしかいないので、手近で頑丈そうな俺をもにたぁに捕まえたのだろうけど。

しかし少々魔族側の消耗が激しすぎる。それに、俺も魔力が使えるようになっていない。

「まったくこの程度で弱音を吐くなんて情けない。ウェラー卿、もにたぁになって下さってありがとうございました」

その言葉を聞いて、俺はグウェンを取り残して研究室を後にした。まぁグウェンに関しては、赤い悪魔だって死なない程度には労ってくれるだろう。部屋を出るときすごく恨めしそうな視線を向けられたけど。
いや、ほんと、頑張ってグウェン。



俺のもとにユーリ陛下ご帰還の知らせが届いたのは、それからすぐ後のことだった。

「ただいま、コンラッド」

「おかえりなさい、陛下」

「だから、陛下って呼ぶなよ名付け親」

「すみません、ユーリ……ところでユーリ、聞きたいことがあるんですが」

どうして発光しているんですか?



赤い悪魔の魔導装置は、バッチリ俺に影響を与えていたらしい。

「あらウェラー卿。目の調子はいかがですか?それにしても、なぜ陛下だけが輝いて見えるのでしょう……興味深いですね。え?効果がいつまで続くか教えろ?強い装置ではないので、明日の朝には自然と消えますよ」

それだけ聞くと、俺は急いで赤い悪魔のもとから立ち去った。これ以上実験台にされては敵わない。

それにしても、アニシナの言う通り、なぜユーリだけが輝いて見えるのだろうか。

いや、心当たりが全く無い訳ではない。

しかし、その心当たりをアニシナに伝えることは絶対にできない。

そんな、言うところのやましい気持ちなのだ。



「コンラッド、具合悪いの?」

「どうしてですか?」

「さっきからおれと全然目合わせないだろ」

「すみません、少し眩しくて」

時間がたつにつれて、ユーリはより強く輝きだした。

「そんなに眩しいの?あ、おれちょっと離れてようか?」

「それでは護衛の意味がありませんよ」

小さく微笑むと、ユーリも笑った。

直接顔を見なくても、ユーリがどんな表情をしているかわかる。何たってユーリのことは、生まれる前から知っている。

「でも、話すときも顔見れないって、何か変な感じ」

「すみません」

「いや、別にあんたが悪い訳じゃないって。でも、せっかくのお月見なのにおれが隣にいたら眩しくない?」

「むしろ夜でも明るくて安心ですよ」

今日は一年に一度の、眞魔国で月が一番近くに見える日。ユーリにその話をしたら、いつも通りの笑顔で「見に行きたい!」と言った。

血盟城は眞魔国で一番高いところにあるから、月も星もよく見える。

最上階のバルコニーに椅子を2つ置く。しかしユーリはそれには座らず、手すりに身体をあずけながら月を見上げている。

「ユーリ、上着をもう一枚着てください。風邪を引いてしまいますよ」

「うん」

彼は素直に俺の腕から上着を受け取ると、腕を通してまた月を見上げた。

「なぁコンラッド」

「はい」

「月が、綺麗だな」

声が固くて、何か重要なことを言われたような気分になった。

しかし彼の言葉の裏にある気持ちがわからない。

「ええ」

結局俺はそれだけ答えて、ユーリの隣で月を見上げる。

「なぁコンラッド、まだおれ眩しい?」

「少しね」

本当は少しじゃない。ユーリと二人で過ごすに連れて、ユーリの身体から発される光はどんどん強くなっている。

だけど、魔法にかかっていなくてもあなたはいつだって眩しい。

眩しくて、綺麗で、だからこそ触れてはいけないような気がして。

こんなやましい気持ちであなたを見ている俺にすら、あまりにも無邪気な笑顔を向ける。

それが忘れかけていた劣等感を時々呼び起こす。

「うーん、眩しいならさ、ちょっとだけ目瞑ってみてよ」

「こう……ですか?」

「そうそう!そのままストップな」

ユーリはそう言うと、隣に立つ俺の肩を斜め下に引き寄せて、



キスをした。



「うーん、移らないな……粘膜感染ってやつ?いっそおれも眩しくなっちゃえばコンラッドも安心かな!って思ったんだけど……だめだ、あんた光ってないや。あ、まだ目は開けんなよ!おい、開けんなって!コンラッ……」

目の前には、耳まで真っ赤な彼が立っていて

「見んなって言ったろ……どうしても目開けたいなら、おれじゃなくて月見てろよ」

そうか、あなたと見る月だから綺麗なんだ。しかし、今は月なんて見ている場合ではない。だって目の前のあなたがこんなにも綺麗で可愛らしい。

「いいえ、眩しくてもうあなたしか見えません」

「なにそれ、キザ」

うつむいたユーリを抱きしめた。

「ねぇユーリ、あなたのことが好きなんです」

「……おれもだよ、色男」

ああ、こうしていれば眩しくない。

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