コンユ中編
□宝物はあなたの笑顔
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「ねぇ聞いた?魔王陛下ご寵愛トトの結果が出たらしいわよ!」
「あー、それどうせデマよ」
「どういうこと?」
「コンラート閣下とお付き合いなさってるって噂でしょ?でも、あの二人前からあんな感じだったじゃない」
「確かに……」
「でも、手を繋いでらっしゃる所を見た子がいるのよ?」
「そのくらいするわよ、あの二人なら」
今日もどこからか聞こえてくる華やかでかしましい話し声に、俺は気づかないフリをして通り過ぎる。
最近の侍女たちの話題は、魔王陛下とウェラー卿は付き合っているのか否か、というもので持ちきりだった。
「ああ、ウェラー卿。いい所で合ったね。おはよう」
「おはようございます猊下。何かご用ですか?」
「ああ。これと、これと、この書類をギュンターに届けてきて欲しいんだ。生憎僕は今忙しいからね」
渡されたのは随分と大量の書類だった。こんなに仕事が溜まっていたなんて……しばらくは俺もギュンターの補佐をするべきかな……。
猊下に渡された書類を持ってギュンターの作業部屋に行くと、そこには珍しくヴォルフがいた。
「だから、真相を確かめればいいだろう!本人に直接聞けばいい!」
「ヴォルフ、あまりギュンターに迷惑をかけるな。ギュンターは今忙しいんだから……」
「コンラート!あなたこんな所にいたんですね!やっと捕まりました!」
「捕まる……?俺を探していたのか?」
ギュンターは運んできた書類にちらりと目を通すとそれを机の端に追いやって、それよりも、と俺を見つめきた。
「コンラート!ユーリと付き合っているという噂は本当か!?」
「もー、ここにも居ないよ、ヴォルフラム。今日こそきっちり話して、正式に婚約解消してもらわなきゃ……」
血盟城の中を1人で歩きまわるっていうのは、案外骨の折れる作業なんだな……。
ヴォルフラムはなかなか見つからないし、俺を見た侍女たちは意味深な目でこっちを見つめてくるし……何だか変な日だなぁ。
そろそろ疲れてきたし、グレタと一緒におやつ食べようかな。でも、その前にもう少し部屋を回ろう!もうすぐおやつだと思うと、なんか頑張る気になれるし!
「コンラート!何か言ったらどうだ!」
ヴォルフラムの声がした。それもえらく不機嫌な。確か今声がしたのは……ギュンターの仕事部屋からか。ていうか今ヴォルフ、コンラッドの名前呼ばなかったか?
ドアを開けるとそこは、まさに昼ドラの世界。そう、修羅場ってやつが広がっていた。
「黙ってたのは本当にごめん!タイミングを見計らってたら、何だか言い逃しちゃって……」
「では陛下、噂は本当なんですね!?コンラート……嫉妬!」
「ユーリ、僕はお前がコンラートと付き合っていたことに怒っているんじゃない。それを僕に話さなかったことに怒っているんだ!」
俺とユーリは今、ヴォルフラムによって部屋の真ん中に正座させられている。
一度は俺とヴォルフの決闘になりかけたが、ユーリが何とか場を治めてくれて、平和的な今の状況に至る訳だが……
「ヴォルフラム、俺とコンラッドが付き合ってたこと、怒ってないの……?」
「ああ。確かにユーリが浮気をしことに怒ってはいるが……、コンラートなら仕方ないというか……その、僕はコンラートが……嫌いではない……というか……とにかく!コンラート!ユーリを泣かせたら僕が許さないからな!」
「ああ、もちろん。俺の全てをかけて守るよ」
可愛い弟の優しさに感謝しながら率直な気持ちを伝えると「コ、コンラッド……!こんな所でそんな事言うなよ恥ずかしい……」と、ユーリが顔を赤くしていた。
こんな所でなくても、俺はずっと同じ気持ちでいるよ。それに、何だか素敵だ。結婚の挨拶みたいで。そんなことを自然に考えている自分は本当に幸せ者なんだろうと小さく微笑んだ。
「黙っててごめんな、村田」
昼間のヴォルフラム問題もあったことだし、今日は村田に血盟城に残ってもらって、話を聞いてもらうことにした。
「まあ、君たちの距離感で付き合ってないって方が不思議だったよ。あ、お茶のおかわりいる?」
「ありがとう。村田は怒ってないのか?その、黙ってたこと」
「別に。こうしてちゃんと話してくれたしね。でも、少し悔しいかな……皆が大事に残していた苺は、やっぱりウェラー卿のものになってしまうんだね……」
「……どういうこと?」
「ううん、何でもない。それより渋谷、今日は綺麗な満月だよ」
血盟城は眞魔国で一番高い場所にあるから、月がよく見える。
「うわぁー、今日はやけに明るいと思ったら、満月だったのか!」
「うん。……本当に、月が綺麗だね」
村田はそう言って月を見上げていた。月明かりがメガネに反射して、表情はよくわからなかった。
「ヴォルフラム、どこへ行くんだ?」
「ユーリの寝室だ!」
寝間着で廊下をうろうろしていた弟に声をかけると案の定の答えが返ってきた。
「ユーリとの婚約は解消したんじゃなかったのか?」
「婚約は解消したが、僕はユーリの一番の親友だ。親友と一緒に寝て何が悪い」
「親友だったらユーリの安眠のために、イビキと寝相を直してから行ったほうが良いんじゃないのか?」
「イビキくらいで眠れないなんて……ユーリは神経質すぎるんだ!」
勢い良くドアを開けると、ユーリの部屋には、夜には珍しい来客があった。
「噂をすれば、だね、ウェラー卿」
「猊下、眞王屏におられるはずでは?」
「渋谷と話し込んでいたらこんな時間になってしまってね。今日は血盟城に厄介になるよ」
「では、部屋を用意させましょう」
今から起きている侍女を探すのは骨が折れそうだな……なんて考えながら、部屋を出ようとすると、愛しい主から声がかかった。
「あー、いいよコンラッド。村田、今日はここで寝ろよ。俺の部屋のベッド無駄に広いし」
「ユーリ!お前はそんなだから浮気者と言われるんだぞ!よし、何も起きないように僕も一緒に寝てやる!」
「いや、お前にしか言われたことねえよ」
まあ、猊下と2人きりは俺も少し嫌だけど……ヴォルフがついているなら大丈夫だろう。それに、ユーリのことを信用しているし。
「だいたい、恋人の前で他の男を寝所に誘うとはどういう……」
「あ、じゃあ、コンラッドも一緒に寝ればいいじゃん!」
……え?
「このベッド4人くらいなら余裕だって!ほら、みんな早く入った入った!」
ユーリはそう言うと、俺達を3人まとめてベッドに押し込んでしまった。
「コンラッド、あれ歌ってよ、子守唄!」
全く、貴方の行動はいつも突拍子もなくて、俺は翻弄されてばかりだ。
子守唄なんて、俺はもう貴方を子供としてなんて見てないのだけど……貴方が望むのならいくらでも。そして俺は、息を吸い込んだ。