コンユ中編

□だけどその瞳の色が好き
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朝起きたらなんだか頭が重かった。

あー、疲れてるのかな。ひょっとして勉強のしすぎとか?これはいけない、早急にキャッチボールをしなくては。

「っていう冗談は置いといて、おれなにかしたかな……風邪とか?」

大きく伸びをしてベッドから出る。今日はコンラッドが起こしに来る前に起きられたな、なんてひとりで笑った。

ていうかこのパジャマ、なんだか袖が長くないか?昨日もそうだったかな。

同じベッドで眠るヴォルフラムはまだ呑気にイビキをかいて夢の中。

「陛下、失礼します」

扉の外からコンラッドの声がした。いつもは寝ている時間だから、返答を待たずにすぐに扉は開く。

だけど今日のおれは一味違う。なんたってもう起きてるんだから。

「……ユーリ……?」

「あのな、そんなに驚かなくたっていいだろ。早起きが珍しいからって……」

「いえ、そうではなくて……」

あれ、コンラッドってこんなに背が高かったっけ。

「どうして女性になっているんですか……?」

「……は?」

 

鏡に映っていたのは、平々凡々な女子高生だった。

「ここここれ、ほんとにおれ!?」

頬をひっぱってみる。うん、痛い。

「何が原因でこうなってしまったかはわかりませんが……これは問題ですね」

髪だって長いし身長だって縮んでるし、なによりおれの自慢の筋肉はどこに行ったんだよ!

「とにかくグウェンのところに行きましょう。それからアニシナに相談して……」

コンラッドは珍しく焦っている様子だった。おれはその間も呑気に、この胸触っていいのかな……いや、自分の身体とはいえ背徳感……なんて考えていた。

 

「これが陛下だと……?」

おれの姿を見たグウェンはまじまじとおれの顔を凝視すると、

「確かに双黒だ……しかも顔まで似ている」

「似てるっていうか本人なんですケド」

自分の声が普段よりも高くて落ち着かない。なんだかおれじゃない人が喋ってるみたい。

「この子はユーリ本人だ。俺がユーリを間違えるわけない」

しかし名付け親からお墨付きまでもらちゃったし、さっき鏡に映っていた平凡女子高生は紛れもなくおれ、渋谷有利だ。

「とにかくこのことは内密に……城の一部の者だけで対処しよう」

優秀な摂政殿の判断は懸命だった。その一部にフォンクライスト卿が入っていたことを除いては。

 

ギュンターは汁を吹きださなかった。

しかし、体調が悪いんじゃないかと心配するグウェンダルとギーゼラを軽く押しのけて、コンラッドに真剣な顔で「陛下との子供を作ったことを何故隠していたのですか」と言い放ったので、やっぱり冷静ではないらしい。

「コンラートとユーリの隠し子だと……!?」

そして被害がどんどん拡大するのも血盟城の呪いか何かなのかも知れない。

「違うってヴォルフラム!おれが本物の渋谷有利で……」

「ユーリはどこだ……こんなに立派な娘を隠していたなんて……!」

「落ち着けって!おれ男だから!生めないから!」

「ユーリを庇っているのか?ユーリに似て優しくて美しい娘じゃないか」

あーもう、コンラッドも何か言ってくれよ!

そんな視線を送ると、さすがはおれの名付け親、何かを察したように口を開いた。

「ユーリは今、出産休暇中だから……」

忘れてた、こいつは変なところで天然と言うか間が抜けているというか……やめろ親指を立てるな。全然グッジョブじゃない。

「ところでお嬢さん、お名前は?」

ギュンターがとびっきりのイケメンスマイルでおれを見た。

「え、えっと、渋谷……花子です」

しかし流されてそう言ってしまったおれも、少しは悪い。

 

服はギーゼラさんの私服を借りることにした。

「サイズは大丈夫ですか、花子姫」

「大丈夫!……ていうか、その花子姫っていうのやめない?」

ギーゼラさんの私服は、膝より少し丈の長いスカートだった。なんとも癒し系のギーゼラさんらしくて可愛らしいけれど、おれが履いたって足がスースーするくらいの感想しか持てない。

「良くお似合いですよ、姫」

「コンラッドまでやめろよー。今の状況、半分くらいあんたの責任なんだからな」

まったく、どうしたらいいんだろう。しかしコンラッドが呑気に「でも本当に可愛らしいですよ」なんて笑うから、こいつに惚れる女の子の気持ちが少しだけわかった。

「だけど髪が邪魔なんだよなあ。いっそ切っちゃおうかな」

「こんなに綺麗な髪なのに、切ってしまわれるなんてもったいないですよ!」

と、ギーゼラさんが焦ったように言った。

「私が結んで差し上げますから、ね」

思わず頷いてから、また自分の流されやすさを悔やんだ。

おれってひょっとして、クライスト家に弱いのかな……。

 

執務中のギュンターとおそろいのポニーテールになったおれは、タイミング良く訪ねてきた村田がおれを見て笑い転げるのを何とも言えない顔で眺めていた。

「それにしてもフォンクライスト卿の勘違いもすごいよね!ウェラー卿と渋谷の娘だって?それも渋谷が産んだって、ほんと笑っちゃうよね」

「笑いごとじゃないって。今回はアニシナさんも何もしてないって言うし、いつ戻れるのかもわかんないし」

「あー、そのことについてなんだけどさ」

村田はやっと笑いをおさめると、普通のトーンまで声を落とした。

「僕の予想なんだけど、この国にこんなことができるのはフォンカーベル二コフ卿以外には一人しかいない」

そうだ、村田がこんな顔で誰かの話をするときは、必ずそいつについてなのだ。

「少し前、きみが訪ねてきたときに、あいつは見た目が良いから女になったらさぞ美しいだろうって話してたので気づくべきだった……」

まったく、この国の祖ではなく、トラブルメーカーの間違いではないだろうか。

 

すぐに眞王廟に行きたかったけれど、小さな身体に慣れることができずに盛大に落馬したおれは、コンラッドのすさまじいスライディングによって怪我を免れた。

なんて情けない。しかもおれのせいでコンラッドに怪我をさせてしまった。

「ごめんな、コンラッド……やっぱりおれが魔力使って治してやろうか?」

「いけません陛下。こんなものかすり傷ですよ。まだ慣れないお身体なんですから大事になさってください」

「陛下って言うなよ。ごめんな……」

しかし情けない。自分の体なのに思い通りにならないなんて。

「ああもう暗いよ渋谷。ウェラー卿は魔力を使って傷を癒してあげるよりも、渋谷に側で看病してもらったほうがよっぽど嬉しいと思うよ」

「えー、そういうのって、おれよりも可愛い女の子とかにしてもらった方が嬉しいんじゃないの?」

「だってきみ、今は可愛い女の子じゃないか」

村田はその後に、どっかの誰かさんのせいでね、と毒を吐くと、部屋の入口まで足を進めた。

「僕は眞王廟に行くけど、渋谷はどうする?」

「うーん……コンラッドがこうなったのもおれのせいだし、今はコンラッドについてることにする」

「きみたちって二人とも心配性だよね。名付け親子でも似るのかな?」

そう言って、今度こそ村田は部屋を出て行った。

そういえば今おれはコンラッドの娘だと思われてるんだよな。あんな男前とは似ても似つかないと思うんだけど。

あーあ、コンラッドに似た女の子なんて、きっとものすごく美人なんだろうな。

そういえば、そろそろコンラッドだって結婚を考えてもいい歳だと前にチェリ様が言っていた。

結婚かぁ……コンラッドはその気はないって言ってたけど、人生何があるかわからない。

おれが女の子だったら、あんたと結婚してやってもいいよ。

なんてね、おれじゃあんたは嫌かな。

うつむいたら膨らんだ胸が目に入った。おれが女だって男だって、あんたはいつも通りあんただったな。

何故だかそれが嬉しくて、少しだけ悔しい。

 

目を開けて最初に見えたものは、コンラッドの笑顔だった。

どうやらコンラッドに付いているうちに眠ってしまったらしい。確かにコンラッドの部屋は居心地がいいけれど、別にコンラッドは寝込んでいたわけでもないのに。これじゃ看病の意味がない。

「ユーリ!」

「なんだよ、そんなに嬉しそうな顔しなくたって、ちょっと昼寝してただけだよ」

「いえ、身体が……」

そう言われて自分の身体を見てみると、おれの愛しの筋肉ちゃんたちがしっかり帰ってきていた。

髪もいつの間にか短くなっているし、胸だってなくなってるし、これって……

「も、戻った!よかったー!コンラッド!」

いつかのように、映画で男同士ががっしり抱き合うみたいにおれはコンラッドに抱きついた。

おれがまだスカートを履いていたことに関しては、おれもコンラッドも触れなかった。気にしたら負けだ。ここは美少年がネグリジェで寝る世界だぞ。

 

「ギュンター!おれ戻った!戻ったよ!」

やっといつも通りの学ランに戻ったおれは、この喜びを誰かに伝えねばならないとコンラッドとともに執務室に向かった。理由は簡単、行けば必ず誰かしらいるから。

「戻った……?いえ、陛下がお幸せそうで、私も幸せでございます」

「本当によかったよ。このままじゃおれ、どうなるかと……」

そう言いながらおれが自分の席にドカッと腰かけるのと、部屋の扉が勢いよく開いたのは同時だった。

「ユーリ……」

「あ、ヴォルフラム、見てくれよ!おれ男に戻……」

「出産休暇中だと聞いていたが、随分と元気そうだな」

「……あっ」

そうだ、さっきまでここにいた渋谷花子さんは、おれの隠し子ってことになってるんだった。

「ヴォルフラム、落ち着けって!これには海より深い事情がだな……」

「じっくり聞いてやろうじゃないか……海より深い言い訳とやらをな」

うわ、ウォルフラムってこんなに低い声出せるんだな……なんて感心している場合ではない。なんて爆弾落としてくれたんだコンラッド。おれはグレタより大きい隠し子を作った覚えはないぞ!

「こ、コンラッド、あんたも何か言ってくれ!」

「ヴォルフラム、平気そうに見えても、出産というものは身体に大きな負担がかかるから……」

「やっぱりいい!なにも言わなくていい!」

「子供がいる以上、結婚式を挙げませんと……」

「ギュンターも少し黙って!」

コンラッドは相変わらず爽やかに笑っている。あーあ。いやだな。あんた今の状況わかってんの?

「いっそしちゃいますか?結婚」

ああ、またそんな風におれをからかう。まったく、おれが本当の女の子じゃなくてよかったな。そんな風に見つめられたら、きっとどんな子だって本気にする。

「冗談やめろよ」

そう言ったら、薄茶色の目の奥が少しだけ揺らいだ。

そうだ、きっと彼には、おれが男だとか女だとか関係ないんだ。だけどそれを認めてしまったら、おれはきっと抜け出せなくなるくらいあんたに甘やかされて、絆されて、

「おいユーリ、海より深い言い訳とやらはどうなったんだ」

それ以上考えたら何かにたどり着いてしまいそうだった。しかしいつだってタイミング良く現れる次の問題は、おれに暗くなっている暇なんて与えてくれない。少なくともここ、血盟城では。

「えっと、ヴォルフラムさん、おれの手引っ張っていったいどこに連れて行くんですかね……あの……怖い!何か喋れよ!ヴォルフ!」

そして今日も、普段よりも少しだけ騒々しい一日になる。

おれとコンラッドの間にある諸々を取り残して。

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