ゴーストフェイス

□衝動
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「あ、の…?」
組み敷いたフリージアが体の下で戸惑いの滲む声をあげた。

脅かしてやろうと軽い気持ちで押し倒したのだが、訳がわからないと訴える表情を見た瞬間に凶暴な感情が首をもたげた。
困惑はあるが怯えはない眼差しで見上げてくるフリージアをぐちゃぐちゃに壊し、泣き叫んで離してと暴れるほど怖がらせたい。

俺は無言でナイフを手に取り彼女の頬を切りつけた。刃を添わせ、滑らせる。
赤い線が走り、暖かな血が垂れ落ちた。

呆然と、フリージアは俺とナイフを交互に見ゆる。
震える唇で、言葉を紡ぎだした。
「もし、かして」
静かに続きを促す。
「わたしを…ころし、たいのですか?」
眉根を下げ、目に涙をためてこちらを見つめてきた彼女に俺はマスクの内側で口許を歪めた。

「だったら?」

なんて言うだろう、こいつは。
やっぱり`死にたくない´?
俺に殺された奴らみたいに結局は命乞いをしてくるのだろうか。
フリージアが行動をとったのはそのときだった。
組んだ手で目を覆い、はっきりと彼女は呟いたのだ。
「どうぞ」
そのひと言に興が削がれ狂暴な感情が静まる。
手にしていたナイフを放り出しため息をついた。
いまだに顔を隠すフリージアの手を取る…が、かなりの力を込めているようでどけられない。

「お前」「殺すなら、早くしてください!!」やけくそに叫ぶフリージアに問いかける。
「なんで顔…」「情けない顔を見られたくないんですよっ」
顔を覆う手を無理矢理絡め取り握り締める。
「やっ…!」
確かに情けないと言えば情けない顔だ。眉根は下がり涙がこめかみを伝っていて目が赤い。

「ひでえ顔」「!!だから言ったじゃな」「なんで泣くほどなのにどうぞなんていうんだ」

ぼろぼろと泣きながらフリージアは首を振る。

「別に、嫌だから泣いたんじゃ、ないんです。師範になら、殺されるのも良いかなと思ってました。」

でも、と彼女は続ける。

「私はまだ、生きて師範と一緒にいたい…っ!!」

語尾が嗚咽に埋もれる。
俺は乱暴に手袋越しにフリージアの涙を拭った。

「気が変わった」
「え?」
「殺さねーよ。飽きるまで側に要れば良い」

我ながらぶっきらぼうだと思う態度で、呟いた。
見開かれたフリージアの目を真っ直ぐに見ることなどできず、照れ隠しにグシャグシャと彼女の髪を掻き乱すように撫でる。

「―――っ!!」

声にならない言葉を口走り、フリージアは勢いよく抱きついてきた。

押し倒している態勢であるため、しがみついてくる彼女は重力を背負い、いつもより重く感じるが、その確かなあたたかさごと抱きすくめた。

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