ゴーストフェイス

□裏
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おかしい。そう思い始めたのはいつからだったろう…

そう、確か襲い掛かってきた獲物の息の根を止めたか確認していた時だ。

即効性の薬物だったのだろうか…息が通常よりも荒いのだ。体中の細胞一つ一つが過敏になっている気がして思わず胸を押さえる。

何の、薬だったのだろう。
今のところ感じる症状は脈拍、心拍数の上昇と体熱感だけだ。

だがこいつは殺さないといった。死ぬことは許さない、と。
つまり死に至らしめるような内容ではないのだ。

しかし不安だ。早く師範と合流したい。
衝動に駆られながら立ち上がり一歩二歩歩きだした時だった、体中に今まで感じたことのない感覚が走り膝が崩れその場に倒れこんだ。

な、なに?今の…

身じろぎをするが同じことだった。
それどころか甘い声まで無意識に口をついて出てくる。

「ひゃああっ…!」

先ほど感じた`細胞の一つ一つが過敏になっている気がして´というのは気のせいではなかったのだ。
下手に動けなくなってしまった。

荒い息を供給するための喉が動き、首元のローブに触れるだけでまたあの感覚が背筋を走り私は呻く。

どうすれば、いいのだろう。
早く行かなければ師範は探しに来る。

もし…もしも担がれて帰ることになったら…?

想像して、無意識にトリハダがたった。
とても無理だそんなこと…
服を着ているだけでこの状態だ。
たとえただ触れられるだけだとしても、今は大きな刺激として受け取ってしまう。
私はおかしくなってしまうかもしれない。

折れそうだった心を奮い立たせて私は立ち上がった。
それだけで、先ほどの感覚が全身を苛むが声を抑え込み私は歩き出す。

手すりを握りしめながら階段を降り、壁に手を添えながら歩を進める。

こうしている間にも熱は上がり、頬は赤くなっているに違いない。

ようやく、師範と合流できた。
こちらに気づき、近寄ってくる。

「派手にやってたらしいな」

不意に頬を指先で撫でられた。
そうだ、私は返り血を浴びたのだ。
だが今はそんなことどうでもよく、頬を触られたことにより全身に走った甘い痺れの方が重要だった。

服と表皮の擦れからくる刺激などとは比べ物が無く、反射的に彼の手を弾いた。

「やっ!!」

師範は驚いたように行動を止めこちらをじっと見てくるが気にかけるだけの余裕が残っていなくて俯きながら私は早口で言った。

「私、今日は体調がすぐれないので帰ります」

そのまま彼の横をすり抜け私は走り出した。
ああ、寮までの道のりが長く感じる…。
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