ああ、天女様!

□11.隔心と接近
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ああ…体に鈍い痛みが走る。
刃物より、殴られる方が痛いな…あのわんこ、この人を心配してるよねー…。

「ヒノエさん!」

綾部くんが呼んでる?
嬉しいな…名前を呼ばれるって、良いものだねー。

名前か…天女様は名前を呼んでもらえているだろうか…。
皆が天女って呼ぶから気付かなかった。

前に泣いてたじゃないか。

「“雨音です…ただの、雨音です…”」

自分の名前を呼んで欲しそうに、言ってたじゃないか。

無視しちゃって…悪いこと、しちゃったな…今度会えたとき、呼ぼうかな…。

「急に呼び出したこいつが悪い…八左ヱ門、さっさと片付けるぞ」
「ああ」
「くっ…!」

豆腐先輩が綾部くんを蹴って、ボサボサ先輩に捕まっている私の方に歩き始めた。

背中が痛い…動かない腕が憎らしい。
もっと注意してれば、綾部くんがこんなところに来なかったのに。

…あれ?そういえば、どうしてここに来たの?

虚ろになりつつある意識の中、障子を突き破って何かが叫ぶ声が聞こえた。

わんこ…?

「しろ丸!?」

ボサボサ先輩がそう言うと、わんこが吠え始めた。
ああ、わんこ…キミの名前はしろ丸だったんだね。

助けてもらった人に吠えたらダメだよ。

「邪魔だ!!」
「やめろ兵助!!」

豆腐先輩が、わんこに刀を向けて斬りかかろうとする…その行動に、ボサボサ先輩が動揺した。
動揺した隙に私は、わんこと豆腐先輩の前に飛び出した。

『よせ!!』

私、バカだな…。
でも、決めたんですよ。

この学園で、誰も殺させないって。

「バカなやつ」

豆腐先輩が笑ったあと、刀を振りかざした。
この先輩、殺ることに迷いがない。

恋の盲目決定ですね。

『気持ち悪い』
「お前がな!!」

肩に刀の刃が食い込んで痛い。
あと少しで意識が飛びそうになった瞬間、他の金属音がきこえた。

「貴方達…そこまでよ!!」
『シナ先生…?』




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