ああ、天女様!

□4.余裕と本心
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「…本当に取りに行ったみたいだな」
「ですねー」

そう言って、鉢屋は立ち上がるとヒノエの部屋、押し入れ、床下、屋根裏、すべての場所を捜索し始めた。

「…くのたまのくせに、武器も罠も…何一つ見つからない」

軽く舌打ちすると、机の上に置いてある本に目をやった。

「…これで、中在家先輩に取り入ったのは確実だな」

イラだった表情で綾部に問い掛けるが、なんの返事も無いことに疑問を抱き、振り返ると綾部は部屋の真ん中に座っていた。

「綾部、お前やる気あるか?天女様がくのたまに殺されるかも知れないんだぞ?」
「んー…そうですねぇ」

綾部の返事に鉢屋が思わず掴み掛かろうとしたが「天女様の為だ…」と言って踏み止まる。

それに対して綾部はつまらなさそうに、窓から見える三日月を見つめた。

「…鉢屋先ぱーい、あのくのたま…本当に天女様に仇なす存在なんですかぁ?」

綾部はそう言って立ち上がると、襖を開けた。

「無闇にくのたまを信じるな。それに今は山彦の術の真っ最中だ。…勝手なマネは許さんぞ」

山彦の術とは…領内で反乱を起こし、味方と小競り合いを起こした上で、敵側に庇護を求める術のこと。
本来、理由はなんでもいいが…この場合は「天女様が気に入らない」ことを意味する。

味方に被害をあたえた上で寝返るため、「本当に裏切った」と思わせやすいのが利点である。
そうして敵の懐に入り込み、長い年月をかけて信用を勝ち取っていくのが普通だが…鉢屋の表情を見る限り、そんな余裕はない。

「…わかってますよぉ。天女様の為ですからねぇ」

鉢屋の顔を見ずに、ヒノエの通った廊下を見て自分の口元に手を持ってくる。

「…久々だったなぁ…誰かに口を拭かれるの」

そう、小さく呟いた。




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